娘と息子の小学校入学式があった。
ランドセル、にあってるかな。
似合ってるよ。かっこいいし、かわいいね。
右手で娘と、左手で息子と手をつないで歩く。息子のほうが少しだけ温かい。娘のほうがよくしゃべる。いつものことだ。双子と言えど、手の感触も性格も、ぜんぜん違う。
小学校までは、交差点を2回だけ渡る。狭い通りだが、車はそこそこ通る。
心配だな。大丈夫かな。子どもだけで道を歩くなんて。ぼくだったら泣くぞ。
ここは歩道が広いから、大きな車が来たらここで待つといいよ。ここ、アスファルトがはがれて穴があるから、よく見るんだよ。
わかってるよ。パパ、まえもいってたよ、それ。
わかっていても、つい言ってしまう。
なんせ、機会は今日だけだ。明日からは近所の子どもで班になって登校するから、親子で手をつないで行けるのは今日が最初で最後。
握る両手に、ぎゅっ、と力が入る。
ぎゅっ。
左手が握り返された。息子だ。
反応したのかと思ったが、違った。ぼくが緩めても息子の握力は変わらない。
ふたつ目の交差点を過ぎたとき、ぎゅっ、ともう一段強くなった。
怖いんだ。
息子は口数が少ない。饒舌な娘に遮られたり話題を奪われたりすることも多い。
でも、それは単なる気弱や無口ではない。あえてなのだ。「こわい〜!」と双子の姉が騒いでいるところに自分まで「こわい〜!」と叫び出したら収集がつかなくなることを知っているから、感情を自己完結させて、表現を省略する。
賢いし、優しい子だ。そしておそらく、このままいくと、将来苦しい生き方をしてしまうであろう子だ。ぼくに似ている。ぼくの兄も、ぼくのぶんまで騒がしい人だった。ぼくは「おとなしい、いい子」でいた。
ぎゅっ。
息子の手を握り返すと、目が合った。息子にだけ聞こえるように、「たぶん、大丈夫だよ。もし大丈夫じゃなかったら、大丈夫なようにするから、大丈夫だよ」と言った。息子は「ん」とうなずいた。娘が「なんていったの! いま、ひみつのはなししたでしょ!」と怒ったが、こればかりは我々の秘密だ。
正門に着き、手を離した。子どもたちは教室で説明を受け、大人たちは体育館で入学式を待つ。息子の右手があった左手だけ汗をかいていたので、スーツの裾でささっと拭いた。
やがて、入学式やひと通りの説明が終わり、下校になった。今日だけは親子で帰れる。
3時間前と同じように、右手で娘と、左手で息子と手をつないで歩く。息子の手は少し温度が下がり、娘と同じくらいになっていた。
どうだった、と息子に聞く。
息子は、ぱっと手を離し、たたたっと3歩前に出て、くるっとこちらを向いて両手で大きな四角を描いた。
えっとね、このしかくがきょうしつでね、せきがうえから、1ばんからならんでてね、ここらへんのせきになったよ! それでね、となりのおとこのこがね、まだなまえわからないんだけどね、ザマゼンタのふくろもってた! それでね……
というところで、負けじと娘がにぎやかに報告しだしたので息子の報告はいったん以上となってしまった。
そっか、ザマゼンタか。そういうのアリなんだね。じゃあ、ザシアンの袋を買っといてもよかったかもね。と返すと、息子は「うーん、たしかにね。でも、ルカリオとかもいいんだよね〜」と言いながら、ぼくの左手に右手を戻した。
ぎゅっ、とは、ならなかった。柔らかかった。
言葉じゃなくても、手から伝わるものもある。
たぶん、大丈夫だ。もちろん、大丈夫じゃなくなることだってあるだろうけど、とりあえずいまは、大丈夫そうだ。
こうやってだんだん、育っていくんだな。ぎゅっ、てなること、減るんだろうな。うれしいことだ。さみしいけど。
あっ、ここ、アスファルトがはがれて穴があるから、よく見るんだよ。
パパ、それ、あさもいったよ。なんかいいうの。
まあ、いいじゃんか。何回だって言いたいものなんだよ。
穴をぴょんっと飛び越えるとき、ぼくだけが両手にぎゅっ、と力を込めた。
コメント
近い内にお父さんの手を握る事はなくなり、代わりに友達や恋人の手を握る事になるかもしれない。
寂しいけれど立派に成長してくれるといいね。
息子さん、娘さん、入学おめでとう!!楽しい小学生生活になることを祈っています。
あまりにもひどいラスオリの記事は、この記事とバランスとるためだったのか…
これは反動でヤバい下ネタ記事来るぞ
泣いた。
入学本当におめでとうございます。
お父様に何かあったら、我々ブログ読者が娘ちゃん、息子くんのことはなんとかします。
だから、安心して浣腸し続けてください。
目から浣腸液が……
お子さん方、ご入学おめでとうございます!
何回も同じこと言って嫌われないように気を付けてくださいね(経験談)
油断してるとすぐ涙腺にダイレクトアタックな記事かましてくるのホントズルいわ!
自分の子供のことではないのに、熱いものが込み上げてきちゃう……今しかないこの瞬間の記憶をこれからも積み重ねていって欲しい。
とか思ってると、反動で股間にダイレクトアタックかます記事を書くし、腹筋にもダイレクトアタックかましてくるし、胃袋にもダイレクトアタックかましてくるけど、浣腸をダイレクトアタックしてこない事が唯一の救いだわ。
明日の記事の題名は ギュッと握る珍で決定かなぁ
マジでこの人二重人格なのではと思ってしまうわwww
お子様達すくすく育って本当に嬉しいね。
ずっと何でも相談できるパパでいてあげてね。
本当におめでとうだよ。
初めて読んだ頃は子供たちは4歳とかだったのにもう入学ですか。
おめでとうございます!
闇の青春シリーズと子供たちとの触れ合いの記事は大好きですよ。
品の無い記事はもっと好きですが。
米欄がないと温度差で死にそう
途中まで「息子を手で握り」の間違いではないかと疑ってたし、今でもちょっと疑ってる
いつ来るかいつ来るかと構えてたら最後まで来なかった
実は夢で
実際握ってたのはナニでした
とかオチがあるかと思ったのに
お子さん達のご入学おめでとうございます。入学式に出られてよかったですね。
ここから加速度的に成長する姿が楽しみです。
お父さんがお子さんの入学式連れてったのね。子どもの成長は早いからできるだけ一緒にいれるといいのだけれどね。。。
そっか入学かあ。早いものですね…
娘さんと息子さんの新たな門出を祝して、おめでとうございます。
賢者タイムで完全にセンチメンタルになってるじゃないか
おめでとうです
お子さんのご入学おめでとうございます。たまにあるこういう記事好きです。
大人になって親子ネタが涙腺に来るようになった
ご入学おめでとうございます
これから手を握ることはへるけど、それはお子様達が成長して世界を広げられていってる証拠です。ちょっと寂しいでしょうが、喜ばしいことでもありますよ
ご入学おめでとうございます。
お子様いらしたんですね。
目頭を熱くさせる文章をお書きになる。Tenga記事ではあんなに笑かしてくれるのに。天才め。
我々はリアルでは全然知らないゲムぼく。さんの子供にたまに会う親戚みたいになっている。
「へぇー!もう4年生なんだぁ!こないだ小学校に入ったばっかりだと思ってたのに、前にあったときはもうこぉーんな小さかったんだよ!好きだった○○(小さな子供向けお菓子)いっぱい買ってあるよぉ」
みたいなことを言う。
たまたま出てきたこちらの記事を読んで涙ぐんでしまいました。ゲムぼく。さんやそのご家族にたくさんの幸せが訪れますように!
一読者ですが、ご多幸をお祈りいたします。