ぼくは新しいものが好きで、いつも「いまがいちばんいい時代」と思っているポジティブ人間なので、各ジャンルの「いちばん好き」がコロコロ変わるのだが、おそらく一生変わらないだろうな、と思うものが少しだけある。
そのひとつが、いちばん好きなアニメは『花咲くいろは』である、ということだ。
『花咲くいろは』は、2011年の作品。もう9年も前だ。
名作なので知っている人も多いと思うが、あらすじは下記の通り。
“東京育ちの女子高校生・松前緒花は、ある日、母の皐月に借金を作った恋人と夜逃げすると言われる。緒花は皐月に渡された住所を頼りに石川県の湯乃鷺温泉街にある旅館の喜翆荘(きっすいそう)に身を寄せる。喜翆荘の女将で祖母の四十万スイは、孫の緒花に旅館で働くよう言いつける。緒花は住み込みのアルバイトの仲居見習いとして働きながら学校に通うことになる。”
出典:花咲くいろは – Wikipedia
さて、花咲くいろはは間違いなく名作なのだが、「なにがどう名作なの?」と聞かれるとうまく説明するのがかなり難しい。
たとえば、ストーリーを雑に語ると「田舎の温泉旅館を舞台にした女子高生たちの成長物語だよ」となるのだが、正直、言うほどわかりやすく成長していない。主人公の緒花も、その親友の民子も菜子も、もちろん成長はしているが、第1話と第26話で見違えるほどではない。「いやあ、なんかこう、変わったよね」とは思うが。「成長した」より「変化した」のほうがしっくりきそうだ。
また、全26話の2クール作品だが、練りに練られ計算しつくされた26話、という感じではぜんぜんない。連続アニメのよくあるホメ言葉として、「設定が斬新」「初見の印象と実際の中身のギャップがすごい」「伏線回収がスゴい」などがあるが、いずれにも当てはまらない。設定は地味なほうだし、「えっ!」と声を上げるようなギャップはないし、最終回付近で怒涛の伏線回収、みたいなのもぜんぜんない。
それどころか、むしろ話が後退することすらある。「この流れは旅館再建が絶対うまくいくやつでしょ!」と思った次の回で「それはもう序盤でやった問題だろ!」みたいなのが蒸し返されたりする。
……これだけ読むと、めちゃめちゃなクソアニメみたいだな。
でも実際、エンタメの賞味期限がどんどん短くなっていて「なるべく序盤に視聴者を驚かせてグッと引き込んで最終話から逆算した効率よいストーリーをテンポよく展開していく」というのが主流の昨今にあっては、花咲くいろははウケづらいかもしれない。2話くらいで切られそうな気がする。
正直、ムダが多いのだ。登場人物も、登場人物を取り巻く事情も、いろいろ「ゆらぐ」から。
全編を通していろんなものが「ゆらぎ」続けて、小さく前進したり後退したりを繰り返す。
でも、なんとか全26話を通して見たらトータルではちょっと前に進んだね。あれ?でも、後ろに下がっちゃったものもあるかも。でもまあ、とらえようによっては、それも前進と言えるのかもしれないね。やっぱり、どうしようもないことはあるよね。でもそのなかで、自分にできることや自分のやりたいことが探せる、見つけられるっていうのは、いいことだよね。報われるとは限らないけどさ。
……みたいな作品なのだ。
なんなんだこれ。アニメでやることか?これ。『花咲くいろは』って言うほど花咲いてないじゃん。咲いた花もあるけど枯れた花もあるじゃん。
これ、アニメって言うより、喜翆荘で働く人たちの人生の一部を見届けたみたいな気分で終わっちゃうんだけど。
そしてそれこそが、ぼくが『花咲くいろは』を好きな理由だ。
花咲くいろはは、「わかりやすさ」や「カタルシス」や「成功や失敗」ではなく、「ゆらぎ」や「どうしようもなさ」や「成功とも失敗とも言えないしどちらとも言えるようなできごと」を描き続けた。そのうえで、「そのなかで、ひとりひとりが自分なりに前向きに生きる姿」を見せてくれた。
ぼくはそれを、人生そのものだと受け取った。
どっちつかずで、白や黒よりグレーが圧倒的に多くて、汚くはないけどキレイでもなくて、いいとも悪いとも言いづらくて、でも決して、捨てたもんじゃなくて。
【新刊お知らせ】10/30に電子書籍『花咲くいろは~いつか咲く場所~』が発売!アニメ「花咲くいろは」の完全新作アフターストーリーで、緒花たちや喜翆荘のその後と、新たな希望の光を描きます。来年で放送10周年を迎える作品の新たな展開にご期待ください!https://t.co/sTEW7XSUrI #hanairo pic.twitter.com/JihTjaEQo2
— P.A.BOOKS編集部 (@PABOOKS_1110) October 27, 2020
2020/10/30に、花咲くいろはの完全新作アフターストーリーが電子書籍で発売される。
もちろん買う。とても楽しみだ。
元のテレビアニメや劇場版は、Amazon プライムビデオなどで観ることができる。もしよかったら、まずはそちらを観てほしい。
タイトルやビジュアルだけ見ると「すっきり爽やか青春群像劇!」を期待してしまいがちだから、そういうのがほしい人には向かないかもしれないけど、まあ、それはそれでいいと思う。合う人もいれば合わない人もいるし、無理に合わせる必要はない。ハマれる人は、ぜひハマろう。
いろんな接し方や感想があってよいと思う。人生って、たぶん、そういうものだ。
コメント
来年で10周年なんですね〜。
深夜アニメだけど朝ドラみたいな作品だったと記憶しています。
PAオリジナルアニメの中で一番好き
いい文章だぁ
たまたまテレビをつけたら1話だか2話だかをやってて、5分ぐらい見たけど「なんか辛気くさい話っぽいな」と思って見るのをやめた記憶がある
この記事を読むまで、ずっと主人公の女の子の名前が「いろは」なんだと思ってたよ
PA初のオリジナルアニメっておかげもあった気がする。製作陣の手探りの変化やゆらぎが登場人物にも影響与えたって感じがする
やけに深みのある日常系アニメって感じでしたね
朝ドラ的ではあったけどあのキャラクター達だからこそ愛せたストーだったように思える
キャラデザはかわいいけど性格がみんな年相応にかわいくないんだよね
大人になってから見返すとだからこそリアルなんだって良くわかるから凄いよ
良いレビュー
偶々このレビューを見たが素晴らしい!
私自身が何故花咲くいろはに惹かれたかという理由を改めて教えてくれるそんなレビューだった。