ちょっとした昔話だが、よければ読んでほしい。
1981年。大学1年生の春だった。
入学後のぼくは、大学にも、いや、そもそも東京という街にも慣れずにいた。珍しいすべてに目移りし、地図なしではろくに歩けもせず、不便で不安で孤独な日々を送っていた。
しまったな、もっと事前にいろいろ調べておくべきだった。思えば、大学合格が決まってからというもの自慰にふけってしまい、あっという間に入学の日が来てしまったのだった。
しかし運よく、ぼくはあるとき構内のベンチで「きみ、1年生?おれも1年なんだけどさ、田舎から出てきたばっかりでなにもわかんないんだよね」と話しかけられた。
やれやれ。ぼくは射精した。
そうしてできた友人である彼を、仮にNと呼ぼう。
Nとの時間は、なぜかまったく覚えていないくらい、あっという間だった。
6度の留年を経て就職した1990年、Nは地元の北海道へと戻り営業職として活躍する道を、ぼくは警視庁で体育館に盗難下着を並べる道を選んだ。
ある日、ふと思った。Nはどうしているだろう。
電話してみようとも思ったが、ここで盲点。ぼくとNはあまりにも近すぎて、逆に連絡先の交換をしていなかったのだ。
やれやれ。ぼくは射精した。
しかし、その直後。直後というのは感覚的な話で、実際には半年後くらいだが。事件は起きた。
渋谷のスクランブル交差点で、まったくの偶然として、ぼくはNと再会したのだ。
向こうから歩いてくる人物になにか見覚えがある気がして、紺と茶の地味な服装なのになぜか光って見える気がして、それがNだったのだ。
そして、どうやらそれはNも同じだったらしい。ぼくたちは交差点の真ん中で驚きの声を上げ、立ち止まって言葉をかわし、信号の点滅に気づいてあわてて駅前に逃げた。
変わってないな、お前。いや、お前こそな、と言い合い、わはは、と笑った。
Nは、東京に越してきた、新しい仕事を始めた、来月よかったらあるセミナーに来てみないか、というような話をした。
感動的な再会を果たした親友の誘いだ。断ろうはずがない。ぼくはふたつ返事で射精した。
思えば、このとき気付くべきだったのだ。
セミナーという言い方の違和感に。Nの張り付いたような笑顔に。
ひと月後だったはずのセミナーの日は、感覚的には意外にもあっという間に訪れた。
会場は、イメージしたそれとはほど遠い、いかにも安っぽいつくりのアパートの一室だった。とりわけ壁が薄く、隣室のくしゃみや排泄音まで聞こえてきそうなそれに、ぼくはいささかの不安と射精感を覚えた。
会場には、ぼくとN、そして男女も年齢もさまざまな未知の人物が十数人。
なぜか、ぼくを取り囲むように、そして玄関のドアをふさぐようにして、全員が座っている。
やがて、三国志の武将のような長いヒゲをたくわえた、白服の男が声を発した。
「金玉なめ太郎くん、と言ったね」
「えっ、あっ、はい」
なぜだ。初対面なのに、なぜぼくのことを。
彼はなぜぼくのことを、一文字も合っていないのに、「きみのことは知っているよ」みたいな雰囲気を出しながらデタラメな名前で呼べるんだ。ぼくの名前は五所川原無梨男(ごしょがわらむりお)だぞ。
「め太郎くんは、楽してお金を儲けたい、と思ったことはないかね」
「えっ、はあ。まあ、なくはないですけど」
そこなんだ。苗字と名前の区切り、そこなんだ。
「マルチまがい商法をやってみないかね」
まがいって言っちゃうんだ。自分でそれ言っちゃうんだ。
やれやれ。ぼくは射精し……
「おい、やめろ岡崎!」
Nが大声を上げ、ぼくの陰茎をギュッと握った。
「痛い痛い。離してよ。何するんだよ」
「やめろ!もしかして、まだ気づいていないのか!?これまでのことを思い出せ!お前の射精には『時を飛ばす』能力があるんだ!射精の飛距離に比例して、お前と周囲の人の時間が飛ぶ!こんなに大勢の人がいるところで飛ばしたらいったい何がどうなるか!」
「痛いって、痛いって。あっ、そんなにギュッてされたら尿道が引き締まって、あっ、ちょっと待って、あっ、ああっ」
――ドビュッシー。
薄い壁を突き抜けるような音と速度で、室内に真っ白い虹がかかった。
……
…………
1963年。
「埃っぽくて、醤油臭いわね。でも、不思議と嫌いじゃないわ。ここが、あなたが生まれた時代なのね」
「ああ。さすがに0歳のことは覚えていないが、それでも郷愁がある。きっと、脳の深層に刻まれているのだろうね」
「あなたがちょうど生まれた年にたどり着けたなんて、幸運だわ。あら、向かいにホテルがあるみたい。今夜はあそこにしましょう。次は3000年ごろなんてどうかしら?」
「いいね。1963年生まれのぼくにも、4029年生まれのきみにも、まったく馴染みのない時代。新鮮だ」
「そうね。1037年の時を進めるわけだから、今夜は私ががんばって攻めるわ」
「楽しみにしてるよ。射精するたび時を飛ばすぼくと、潮を吹くたび時を戻すきみ。ぼくたちが力を合わせれば、どこへだって行けるさ。ああ、懐かしいな。あのときNのおかげで実現した特大射精で4059年にワープしてきみと出会えたこと、いま思い出しても感動的だよ」
コメント
えーっと・・・まだ乗っ取られていますか?
文豪、永遠に残すべき未来遺産
まるで意味が分からんぞ!
多分、反省会を今年もやるだろうから、外からの反省点を。
・長くて読めない。
出オチかと思ったらまさかの伏線
意味不明だが設定は感心してしまった
ちょいちょい村上春樹で草
メモに時系列を整理しながらもう一度読もうかな
Nはどうやって時を飛ばす能力に気づいたのか
というか何故そんな危険人物をセミナーに呼んだのか
新年度一発目がこれかよ
悪い夢みたいな文章
誰か説明してくれよぉー
ノーベル文学賞候補にならないかな
途中まで真面目に読んでしまった時間を返してくれ
内容が内容なだけに、エイプリルフールネタか判断が難しいですねぇ。
謝って!
村上春樹にもドビュッシーにも謝って!!
怪文書
Nがその能力を知ってるのは何故なんでしょうねぇ
二人の間に何があったんでしょうねぇ
斬新。
このさりげない伏線は天才と言わざるを得ない
―ドビュッシー。
薄い壁を突き抜けるような音と速度で、室内に真っ白い虹がかかった。
流石としか言いようがない。
時間じゃなくてアカウントがとぶゾ
そのままカッスレ変換出来そうな文体やめれ