
※この記事は、書籍『人生は良ゲー。』の一部を試し読み用に切り出し、ブログ記事化したものです。制作中のものであるため、書籍に収録されているものとは内容が若干異なる場合があります。
Stage 3:おもしろさを「形にする」
たとえ、たったひとりだとしても
ブログ『ゲムぼく。』は、2015年8月23日に誕生した。
まあ、正直なことを言うと、ぬるっと始めたので正確な誕生日なんて覚えていなくて、誰かに「ブログ設立日っていつなんですか?」みたいなことを聞かれたときに、「うーん、まあだいたいこのへんだろう」と適当に決めたのだが。
誕生日はともかく、始めてから数週間のことはそこそこ覚えている。
最初の数日で何記事か書いたが、誰も見に来なかった。比喩や誇張ではなく、本当に。アクセス解析によると、ぼく自身のアクセスしかなかった。よく見ると「あれっ!? ぼくのPCじゃないIPアドレスからのアクセスがあるぞ! しかも何回も! さっそくファンが!?」というのもあったが、それはぼくがスマートフォンからアクセスしているだけだった。接続している回線が違うので別人扱いになっていた。
5日目くらいで、初めて自分以外のアクセスがあった。でもそれは人間ではなく、Googleのロボットだった。検索用巡回ロボットといって、世界中のWebを巡ってGoogle検索データベースの情報収集をしている機械だ。ぼくは「せっかく誰か来たと思ったら、人間じゃないじゃねーか!」とツッコみつつ、「でも、そうだとしても、来てくれてありがとう……」と感謝もしていた。ただの巡回ロボットに感謝し始めたら人間おしまいである。でもまあ、それくらい不安になるものなのだ、最初は。
その後、7日目くらいからは、ついに人間らしきアクセスが見受けられるようになった。最初のひとりが来たときは感動したものである。
ウオオオオオオ! つ、ついに! ついにぼくのブログを見てくれる人が現れたぞ! えっ、どんな人!? 気になる! アクセス解析をすみずみまで見なきゃ! えっと、まずトップページを14秒閲覧していて、そのあと最新記事を50秒閲覧していて……50秒ってことは、読むのが速ければ最後まで読んでくれてるかな……? いや、微妙か……? そのあと離脱しちゃってるから、おもしろくなかったか……? いや、おもしろくなかったら50秒も読まないのでは……? ちょっとストップウォッチで50秒を測りながら自分で読んでみるか……おっ、最後まで読める! じゃあこの人も最後まで読んでくれたんじゃないか!? えっ、気になる! この人また来てくれるかな!? このIPアドレス覚えとくね! 絶対覚えとくね! 忘れないように銀行口座の暗証番号をあなたのIPアドレス下4ケタに変更しとくねぇ~! また来てねぇ~!!
めちゃくちゃ怖いし気持ち悪いが実話である。もはや法の規制範囲外にいるだけのストーカーである。
でも、「ひとりのありがたさ」を忘れないようにする、というのは、ものすごく大切なことであると言っておきたい。
冷静に考えてみると、自分が形にしたものに、生きた人間が少なからず興味を示してくれるというのは、じつはめちゃくちゃすごいことだ。都会の駅前で「私の作品見てくださ~い!」と大声で呼びかけても足を止めてくれる人はほぼいないであろうことを考えると、ちょっと見てくれただけでも充分すごい。「いいね」やコメントがついた日には奇跡である。その日はケーキを買って帰ったほうがいい。
「ブログを始めたんですけど、アクセスが思ったよりぜんぜん少なくて……」という相談が来たとき、ぼくはこういう回答をしている。
「たとえ、たったひとりだとしても。そのあとすぐ去ってしまったとしても。まずは、誰かが足を止めてくれたという事実がいかにありがたいかを、考えてみるといいかもしれません。数字としてはたった1とか2とかで、あなたが最初にイメージしていた数字とはぜんぜん違うでしょうけど、その1とか2とかは、ひとりひとり、生きた人間なんです。生きた人間が、あなたのために、足を止めてくれたんですよ。それって、けっこうすごいことだと思いませんか」
自分が傍観者でいたときには、数字を数字として見ていただろうけれど。形にする当事者になったときには、数字を生きた人間として見たほうがよい。そうすると、小さな数字にがっかりするのではなく、逆に感謝できるようになる。
なにかを形にするにあたり、それを上手にやるためのテクニック論みたいなのはもちろん大事なのだが、それよりもよほど大事なのは感謝の気持ちだ。テクニックなんかいくらでも育成できるが、感謝の気持ちは育成できない。
数字にとらわれず、目の前のひとりに感謝しよう。感謝して、その人のアクセス履歴をすみずみまで追いかけて、IPアドレスの下4ケタを暗証番号にしよう。えっ、怖っ。
(この記事は試し読み用の記事のため、コメントをつけることはできません)















