※この記事は、Skebテキストでいただいたリクエスト(グラシアスSS)の納品物をブログ記事化したものです。
「鉄虫の殲滅を完了した。休眠に移行する」
彼女は淡々と報告し、ひび割れたアスファルトをベッドにして眠りについた。もう、誰が聞いているわけでもないのに。
建築芸術のように優美で、恐竜のように幻想的で。スリープモードのためにカメラアイの電源を落としてなお、その瞳は海色に輝いて見えた。
氷竜グラシアス。9.8メートル、27トンの超大型AGSでありながら、その姿を見た者はみな彼女を「彼女」と呼ぶことをためらわなかったと言う。女性型のAIが搭載されていること以前に、その容姿が疑いようもなく気品に満ちていたからだ。
21XX年。
鉄虫との戦争が長期化し、6枚ある翼のうち2枚を失い1枚の半分を折られてなお、彼女は美しさを失わず、また心も折られていなかった。
ただ、唯一。彼女が守ろうとし続けた人類だけが、もういなかった。
人類が滅亡し、彼女がひとりで戦うようになってから、およそ10年が過ぎていた。
「鉄虫の接近を確認。迎撃を開始する」
もう、何度。何百回、何千回、これを繰り返しただろう。
あとどれほど繰り返せば、鉄虫は絶滅するのだろう。人々は戻ってくるのだろう。
否、彼女はわかっていた。
不幸にも、どのAGSよりも明晰な頭脳を与えられてしまったがゆえに、彼女はすべてを理解したし、また傷ついてもいた。
もはや、いくら倒しても、鉄虫がいなくなることも、人々が生き返ることもない。
どれだけ自分が立ちふさがったところで、石ころひとつで川の流れが止められるはずもない。
石はいつしか勢いを増した川に飲み込まれ、長い月日を転がるうちに角をもがれ、やがて最後は砂浜の粒になってしまうだろう。10年で、この翼が徐々にもがれていってしまったように。
「鉄虫の殲滅を完了した。休眠に移行する」
海色の瞳に満月を映しながら眠る彼女の隣には、白く無骨な2トントラックの姿があった。
……
「盟友よ。疲れているだろう。休まないのか?」
「あと2~3分だけだよ。もう拭き終わるさ」
「それに、その水は飲み水だろう。貴重ではないのか?」
「まあ、そうなんだけどさ。海水だと錆びちゃうんだよ、車は」
男にとって車とは、そこまで手をかけたくなるものなのか。
いや、この男にとって、か。つくづく変わり者だ。
「もうずいぶん昔のトラックだけど、お世話になった仕事道具だからな。こんな世の中になって運送の仕事どころじゃなくなっちゃったけど、大事な相棒だよ」
「ふふ、人間のそなたにしてはずいぶんと大きな相棒だ。ロマンチストなのだな」
「ははっ、グラシアスほどじゃないさ。ロマンチストついでに言えば、俺やグラシアスが生きているみたいに、車だって生きている、って思うんだよ。できれば、鉄虫なんかに潰されないように守ってやりたいんだ」
「生きている、か」
「だからまあ、もし俺が先にいなくなっちゃったら、よければこいつを守ってくれよ。ひとつ、俺みたいなものだと思ってさ」
もちろんだ、盟友よ。守るさ。たとえ、この身が朽ち果てようとも。
なぜなら、私にとって、そなたは――
もし私に竜でなく、人の身体が与えられていたなら――
……
「鉄虫の……殲滅を完了……」
あれは、夢だったのか。
「第4波の接近を確認……続け……て、迎撃を……」
それとも、走馬灯だったのか。
「……」
6枚の翼をすべてもがれ、海色の瞳と銀色の鱗は煤け、そしていま、言語機能も失った。
もう、なにも聞こえず、なにも発せない。ただ、煤で黒ずんだ世界がぼんやりと見えるだけ。
気品に満ちた氷竜は、泥にまみれた水蜥蜴のように地に伏し、自らの終わりを待つほかなくなっていた。
新型鉄虫による、超長距離のレーザー射撃。予測などできるはずもなかった。
いずれこうなるとはわかっていたが、「いずれ」は前触れなく訪れるものだ。
あのときもそうだったな、盟友よ。そなたは私と、そなたの愛車だけを残し、突然に先に逝った。
私が人に生まれていたなら、涙を流せていただろう。亡骸を抱けていただろう。
しかし、この血の通わぬ目では、すべてを傷つける爪では、それらが叶うことはなかった。
それでも――
それでも私は、そなたを――
グラシアスは這った。もはや四肢を満足に動かすこともままならず、蛇のようにずるずると、しかしまっすぐに這い進んだ。
その先にあったのは、2トントラック。煤でところどころくすんだものの、大きな傷はなく、爆風を浴びていない部分は白く輝いたままだった。
彼女は安堵するように、そして、自らの仔を優しく包み込むように、2トントラックに覆いかぶさった。自らの身体をもって、鉄虫の攻撃からこの車を守り抜くために。
……
“ロマンチストついでに言えば、俺やグラシアスが生きているみたいに、車だって生きている、って思うんだよ”
しょせんは機械に過ぎない私を、当然のごとく「生きている」と言ってくれた。
“できれば、鉄虫なんかに潰されないように守ってやりたいんだ”
特段の意図のない、無意識の言葉だったのかもしれない。
しかし私は、そこに愛を感じた。感じてしまった、と言うべきかもしれない。
“だからまあ、もし俺が先にいなくなっちゃったら、よければこいつを守ってくれよ”
罪深い盟友だ。そなたは、私が女性の人格を持つと知っていたはずだろう?
“ひとつ、俺みたいなものだと思ってさ”
そう言われたら、私は――
私は、私が終わる瞬間まで、そなたを――
……
黒くぼやけた視界と意識のなかで、気づけばグラシアスは、2トントラックを抱きしめ、その四角い車体の角に自らの下腹部の溝をこすりつけていた。
冷気発生装置が停止し身体中が熱を帯びた彼女にとって、ひんやりとした車体が冷却に有用だったのだ……とも説明できるが、おそらく実際にはそのような理屈から来る行動ではない。
それは、セックスだった。グラシアスによる2トントラックへの、より正確には持ち主であった「彼」への、異常とも言えるし純真とも言える、抑えきれない感情の発露だった。
27トンの巨体に、あらゆるAGSでも屈指の出力。
本来なら2トントラックをも容易に粉砕してしまう力を持つが、すべての力を失った今際の彼女は、皮肉にも2トントラックを全力で抱きしめ、全力で愛することができた。
機械竜から人間への、叶わぬ恋。
あのときは、涙を流すことも、抱きしめることもできなかった。
しかし、いま、ようやく。初めて繋がることができた。
この姿はきっと、いびつだろう。美しくないだろう。忌み嫌う者もいるだろう。
それでも、私は――
人が人にそうするように、そなたに愛をぶつけることができて、私は――
彼女は2トントラックを情愛で満たすがごとく全身で覆い隠したまま、目覚めることのない眠りについた。
……
数十年後。
「これは……AGSの残骸か? 色はともかく、形はグラシアスに似て見えるけど……」
「ああ、間違いない。彼女は、ここで鉄虫を迎え撃っていた私の同胞だろう」
「こんなにボロボロになって……先の戦争でひどい目に遭ったんだな」
「……いや、そうとも限らないさ。彼女は満足そうな顔をしているよ」
「そうなのか? 同型機だと、そんなこともわかるのか」
「ふふ、ただの勘さ。ただ、私たちグラシアスは人間たちを守り抜くのが使命だ。詳しい事情は知り得ないが、彼女はきっと、彼女なりにそれをやりとげたのではないかな」
雨風に晒され全身が黒く錆びついた姿でなにかを抱き続ける竜の残骸の周囲には、草花のベッドが生い茂っていた。
※この記事は、Skebテキストでいただいたリクエスト(グラシアスと2トントラックのドラゴンカーセックスSS)の納品物をブログ記事化したものです。
コメント
グラシアスはむちむちじゃないからエイプリルフールだな
> 黒くぼやけた視界と意識のなかで
この辺から山の天気のような急転直下で察した
伝説上の存在であるドラゴンに形を模して作られたグラシアスが人の残り香に縋るところめちゃ好き
あれ、ゲムぼくさんが珍しくAGSの記事を書いてる→良い話じゃねえか……(´;ω;`)→ドラゴンカーセックスじゃねえか!!!!!!!!!
あれ、ゲムぼくさんが珍しくAGSの記事書いてる→良い話じゃねえか……(´;ω;`)→ドラゴンカーセッじゃねえか!!!!!!!
こんなに文学的なドラゴンカーセックスはじめて見た
リクエスト内容で草
「あちらのお客様からです……」ってすっと渡されたすごく美味しいカクテルのベースがストゼロだと途中で気づいたけどにも関わらずめっちゃ美味しいのでそのまま飲みきれてしまって満足しながら困惑している
良過ぎて泣いてしまった。
いつもの睾丸で書いているような記事も、優れた文章力があるからこそ面白く読めるのだと感じさせられた。
これからも健康に気を付けて毎日投稿して欲しいと思う。
急にトラック出てきて嫌な予感してたら案の定だよ!
俺達はいったい何を見せられているんだ…?
マイナスな依頼とマイナスなゲムぼくさんが掛け算されて良い話が産まれた
単記事だけで風邪を引かせにきたな
トラック出てきた時点でちょっと察した人はもう後戻りできないんよ
信じられない物を見た
トラックで??ってなったから正常
ドラゴンカーセックスで感動させるな
ドラゴンカーS○Xにも理解のある男、ゲムぼく
最強の依頼と最凶の文章で草
いつものゲムぼくか…!?
いつものゲムぼくだな…
えっ何これは…(困惑)
最後のタイトルでいつものげむぼくに戻るな
中盤にドラゴンカーセックスが始まって困惑したがリクエストなら仕方ないな
世界一ドラゴンカーセックスと真摯に向き合った男
どんな感情で読めばいいかわかんね、イイハナシデイイヨネ?
ラスラジでドラゴンカーセックス連呼してて笑う
気が狂っとる
どういう精神状態で書いてるんだこれ
怖くて泣いちゃった
読みやすくも深い文章力で引きつけておいてからの豪速球デッドボール
これがドラゴンカーセックスか…
ただのドラゴンカーセックスではなくメカドラゴンという特殊シチュなのに完成度高い
ワロタwww
エイプリルフールにこれをぶっこむセンス
強すぎるドスケベ要素で完成度の高いストーリーが上書きされるの最高にラストオリジン
これもう哲学でしょ
????????
感動した
唐突にセックスが始まって「訳わかんねえテキスト書くなあ」と思ったらお題がイかれてたのでゲムぼく。さんは何も悪くなかった。依頼通りの納品だった。
それはそうと、今年は長州力子さんと卑猥なアシスタントのラジオはないのですか?
無機質な鉄の塊が柔らかな肉の女性に憧れて性行為もどきをするの感動的やん……!って思ったらリクエスト内容で真顔になった。涙返して。
今日はいい話担当のゲムぼくか……
→いつものブログ担当ゲムぼくだった
ドラカセを文学的にするな(戒め)
ぶっちゃけドラゴンカーセックスからコレをアウトプットできるのすごいと思う
新しい性癖の風穴開けすぎだろ。小学生がやるミニ四駆の肉抜きか?
えーっと?
すいません。
今日のはレベルが高すぎてついて行けませんでした…
世界で一番ピュアなDCS
このドラゴン女の子だったのか
ヤバいゲムぼく。さんかと思ったら依頼がやばかった。
コレはコレでしんみりせずに済むし
案外ちょうど良かったかもしれない
落語の三題噺か?
ドラゴン→わかる
2tトラック→わかる
セッ○ス→まあわかる
ドラゴンカーセッ○ス→!?!?!?www
エンプレスSSがなければ「どうせエロ展開になるんでしょ」「やっぱりな」だったのにアレのせいで「もしかして非エロSSか?」「ちょっと待てぃ!」になるの何?どういう頭脳プレー?
突然ドラゴンカーセックス出てきて真顔になったけど面白いもんだから困惑してる
トラックを愛していたんじゃなくてその持ち主への愛から致してしまったわけだからこれは遺品オナニーとの見方もできますね
ドラゴンカーセックスな上に女性上位で機械って、マイナー性癖の三段突きみたいなことするな…
最高 ラストオリジンでドラゴンーセックス見れると思わなかった。ゲムぼくニキありがとう
でもグラシアスさんはおんなのこなのでこれはカードラゴンセックスですね
先にskebリクエストがあったって記事を見てから読んだけどそれでも泣いてしまった。名文過ぎる
最初は面食らったけど冷静に読み返すと超いい話だな…国語の教科書に載せてほしい
これを国語の教科書に乗せるとか日本8000万人の小学生の性癖が歪んでしまうぞ!
それでもいいのか!
常日頃からドラゴンに興奮してる者です。あまりにも良すぎて目と亀頭から涙がこぼれ落ちました
めちゃくちゃ良くてびっくりしちゃった…
小説家になろうよ
純愛すぎで泣けた…
DCS好きとしてはこの展開は予想外であり、また新しい可能性を見出してくれたと感じています。
エロスと美しさと切なさの素晴らしい融合に感激しました。依頼主じゃないですけどありがとうござます
ドラゴンカーセックスで初めて感動した
マジですげー良くてびっくりした ドラカーで感動さすな
ムチムチに吸い寄せられて
ラスオリを始めたばかりの新参者です
元々グレイシアやゾロアーク、エンニュート等のメスポケで欲情するような奴ですが
これを機にグラシアスで興奮するようになりました
どうしてくれますか?
今際の際に遺品を通じて想い人と身体を重ねるという救いのあるバッドエンドが良すぎて泣いてしまった
ありがとうゲムぼくさん