落書きギプスに憧れて。

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 ぼくは高校生のとき、左足首の靭帯を切る大ケガをしたことがある。
 それは甲子園出場をかけた県大会決勝、サヨナラのチャンスで三塁ランナーのぼくがホームに滑りこんだ際のクロスプレーで……みたいなエピソードがあればいいのだが、ぼくは帰宅部でありバリバリのぼっちである。実際は体育のハードル走でドテッとコケてブチッと切れた。
 めちゃめちゃ痛かったが、友達がひとりもいないぼくが痛がったところで、誰も心配してくれないことはわかりきっている。
 ぼくは持てる限りのアドレナリンを放出して平然と振る舞い、その後もハードル走を2本か3本こなして、残りの授業もふつうに受けて、自転車を漕いで家に帰った。
 家に着いてホッとしたとたんに痛みが一気に来て、めちゃめちゃ泣いて、コタツで相撲を見ていたおじいちゃんに「軽トラ出してくれぇ、病院連れてってくれぇ」としがみついたのを覚えている。
 診察結果は、即入院。下半身麻酔で手術もして、退院までは数週間かかった。尿道にズボッと刺されたカテーテルの痛さと怖さはいまでも忘れられない。
 さて、足の靭帯を手術したとなると、当然、ギプスを着けることになる。
 わけもわからぬままに型を取られ、あっという間にギプスが完成し、ぼくの左脚はガンダムのごとく白く頑強になった。
 けっこう重いなあ、なんてとまどいつつ、松葉杖をつきながら院内を歩いていると、やはり同じように脚や腕にギプスをした、ぼくと同年代くらいの若者を何人か見かけた。
 考えてみれば、この病院の周りは中学・高校がけっこう多い。部活が盛んな高校もあるから、どうしたってケガ人も出てしまうのだろう。
 いやあ、意外と仲間が多くて安心だなあ。こんなにケガして、最近の若者は軟弱だなあ、はっはっは。
 しかし、よく見ると、彼らのギプスはすべて例外なく、ぼくの真っ白なギプスとは決定的に違う部分があった。
 落書きがされていたのである。
 そういえば、ドラマやマンガで見たことがあるぞ。
 ケガでギプスを着けると、お見舞いに来た友達がマジックで落書きしまくるのが世の常であると。「ちょっ、やめろよ!マジでやめろってー!」なんて形だけは怒るけどまんまと落書きを受け入れ、文字やイラストで真っ黒になったギプスを見せびらかすことこそがリア充の証であると。退院するまでギプスが真っ白だった人間は天然記念ぼっちとして永久に語り継がれると。
 どうしよう。
 ぼくは友達がひとりもいないぼっち。見舞いには家族以外誰も来ない。あ、そういえば親戚のおばちゃんがはっさくを持ってきてくれたけど、それはたぶん友達ではない。
 このままでは、ぼくのギプスは永久に真っ白なまま。
 それを見たとき、看護師さんたちはどう思うだろうか?ナースステーションでさぞ爆笑するのではないだろうか?
 ぼくのお母さんやお父さんはどう思うだろうか?口には出さないまでも、「ああ、やっぱりこの子は友達いないんだな……私たちの育て方が悪かったのかしら……」と悔やむのではないだろうか?
 それはイヤだ!人の心を持たぬ極悪ナースどもに笑われてなるものか!大好きなお母さんお父さんを心配させてなるものか!
 ぼくは松葉杖をついて1Fの売店に行き、黒いマジックを買い、病室に戻った。
 そしてカーテンを閉め、ひっそりと、自分のギプスを自分の手で黒くし始めた。「早く元気になれよ!」みたいなメッセージが無難でそれっぽいかな、と思ったが、文字は筆跡から自作自演がバレる可能性があるため、適当な絵を描くことにした。
 しかし、絵心に乏しいぼくがなにも見ずにパッと描ける絵といえば、ドカベンの山田太郎かドラクエのスライムしかない……
 ここで山田はさすがに違うだろうということで、スライムをキュッキュッと描いていった。
 そして、会心の出来のスライムを左脚ギプスのスネあたりに描き終えたあと、ぼくは致命的なミスに気づいた。
 
 あっ!これ、向きが逆だ!!
 他人が描いたら、スライムの頭は上向きになるはずなのに、自分で描いたから頭が下向きになってる!
 さかさだ!自作自演だって一発でバレてしまう!!
 しばし放心状態のぼく。
 しかも、それを黒く塗りつぶしてなかったことにするという手を思いつく前に、検温に来た看護師さんにさかさのスライムを見られてしまった。
 その後、退院までぼくが陰で「スライムくん」と呼ばれたことは言うまでもない。あと、その病院には二度と行っていないことも言うまでもない。
 
 ちなみに、生まれたときから周りに友達しかいない超絶リア充である妻にこのエピソードを話したら、「あ、私も入院でギプスしたことあるけどずっと真っ白だったよー。友達は毎日来たけど本気で怒ったら大丈夫大丈夫。やってみ」と言っていた。
 いや、ぼくはそもそも友達がいないんだよ!と怒ったことも、やはり言うまでもない。
 
 
 
 

コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    カテーテル、痛いですよね。
    私も差し込まれ、引っこ抜かれていじくり回されました(手術や清拭、検査で位置を変えたりした)けど、いまでもあの白い悪魔の姿がちらつきます。
    人が、痛みにひゃっとか悲鳴をあげる度に鼻で笑うやつらは、一度ぷらぷらしたものにカテーテルを差し込まれてみるべきですよね。

  2. 名無しのゲーマー より:

    それにしても妻に色々喋りすぎでしょw

  3. 名無しのゲーマー より:

    こんな面白い文章書ける人なのになんで友達いないのと思うけど
    冷静に考えると自分でギプスに絵描く人とは友達にはなりたくないな…

  4. 名無しのゲーマー より:

    唐突なドカベンで噴いてしまう

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