しがみついて。ただ、しがみついて。[勝利の女神:NIKKE]

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 その昔、2021/03/06(土)に放送されたテレビ番組『マツコ会議』で、マツコ・デラックスが語っていた印象的な言葉がある。けっこう有名なので、知っている人も多いかもしれない。

「人生の変わり目で、手を差し伸べてくれる人がいるんだなっていうのは、すごく感じてる。差し伸べられた手に気づくくらいの、世の中と向き合う気持ちは、忘れないでいてほしい。絶対にね、光ってる手があるのよ。汚い、いやらしい手も、いっぱい出てるんだけど。絶対に光ってる手があるの。だから、それをつかむ勇気をつねに持っててほしい」
 

 勝利の女神:NIKKEの2.5周年記念イベント『UNBREAKABLE SPHERE』が、もうすぐ終わる。
 オールドテイルズ部隊に所属するニケ、「セイレーン」ことリトルマーメイドを主役にしたイベントストーリー……だったのだが、個人的には、もっとも気になったニケはほかにいる。
 インキュベーター部隊に所属する「落ちこぼれ」のニケ、モリーだ。
 

 モリーは、量産型ではない特別仕様のニケでありながら、実際の性能・実力は並の量産型以下。「欠陥品」「役立たず」などと称され、誰からも必要とされず、都合よく利用されては捨てられを繰り返し、ついには事実上の「廃棄処分待ち部隊」であるインキュベーター送りにされてしまった。
 そうした経緯から、彼女は極度の人間不信に陥っている。ネガティブで、敵意や悪意に敏感で、すべてを疑ってかかる。無理もない。ここまでのことを考えれば。
 

 ただ、彼女は「自らに生きる価値などない」と思いつつも、同時に「どうにかして生き延びたい」とも思っている。自分に絶望はしているが、生きることに絶望したわけではない。
 なので、彼女は行動する。「また利用されるだろう」「また失敗するだろう」とわかっていても、それによってさらに叩き落とされるとしても、やるしかないから、やる。

 そして案の定、今回の危険な任務でもまた利用されて、また失敗して。もうこれより落ちるところなんてないから、いよいよ死ぬしかなくなりそうで。
 

 しかしそこで、ついに初めて手を差し伸べてくれる人が現れた。セイレーンである。
 彼女は溺死寸前だったモリーを陸に連れ戻し、命の恩人となった。もっとも、気絶状態にあったモリー本人は、セイレーンに救われたと気づくまでかなり時間がかかったが。
 セイレーンとの出会いによって、モリーの人生はようやく少しずつプラス方向に動き始めていくことになる。

 これは、冒頭で引用した「人生の変わり目で、手を差し伸べてくれる人がいる」という話に似ている。このイベントストーリーを呼んでいて、ぼくは真っ先に思い出したのがその話だ。
 ただ、モリーはもっとすごい。モリーに対して、ぼくが尊敬する点はふたつある。
 

 ひとつめは、手を差し伸べてくれたセイレーンについて、「たまたま恵まれた」のではなく「モリー自ら引き寄せた」という点。
 気を失う寸前、モリーは声にならないほどのかすかな声だが「死にたくない!」と発しており、それが水中でも音を聞き分けられるセイレーンに届いた。セイレーンの性格からすれば、声が聞こえなくとも発見さえすればいずれ助けていた可能性は高いが、モリーの叫びがセイレーンの意志を強め、行動を早めたことは間違いない。

 これは、モリーが自分に絶望しつつも生きることには絶望しておらず、何度傷つき、何度だまされても「どうにかして生き延びたい」と想い続けていたからこそできたことだ。
 想いが途切れていたら、声は出なかったはず。「ああ、やっぱりダメだ。いよいよ終わりか。私の人生、なにもいいことなかったな」と。むしろ、モリーの境遇から考えれば、そうなるほうが自然なくらいだ。

 でも、モリーは叫んだ。たったひとこと、自分のために、「死にたくない!」と。
 ここに彼女の強さがある。力がなくても、どんなに不幸でも、救われたことが一度もなくても。生きたいと願い続け、それをまっすぐ表に出せる力。それがモリーにはあった。
 

 そして、ふたつめは、「偶然を待たない」ということ。
 モリーはセイレーンに救われたあとも何度もピンチに見舞われるが、「また誰かが運よく救ってくれないかな……」という受け身的な思考にはいっさい陥らない。彼女は一貫して「誰かが」ではなく「自分が」で動いていた。

 具体的には、目的のために率先して自己開示をして、人を頼っていた。特に、セイレーンを助けに行きたい、とミハラとユニに懇願したときが顕著だ。
 自分がいままでどう生きてきて、いまはなにがしたくて、でも自分だけではこんなにも無力で。でも、あなたたちがいれば、もしかしたらできるかもしれなくて。だから、どうかお願いだから、一緒にやってほしい。一回だけでいいから。なんだってするから。
 これも、誰でもカンタンにできることではない。しょうもないプライドや羞恥心が邪魔をしたり、「頼ったところで無理かもしれないし」とあきらめたりする。

 でも、モリーは叫んだ。たったひとこと、セイレーンのために、「助けたい!」と。
 ここにも、彼女の強さがある。なにがあっても生きることだけはあきらめなかった彼女は、大切な人が生きることもあきらめない。
 

 派手な力や巧みな技はいっさい持たないモリーだが、あえて言うなら、「生きることにしがみつく意志」だけは、おそらく誰よりも強いのだろう。
 それはいわば「執着」であり、一般的にはかっこいいものではないかもしれないが、たぶん、ぼくも含めて多くの人が憧れるものだ。
 

 この『UNBREAKABLE SPHERE』というイベントストーリーは、2.5周年という大きな節目の記念なのだが、意外なことに主要登場人物の輪が広がらない。セイレーンとモリーとミハラとユニの4人で始まり、同じ4人で終わる。
 とてつもなく強大な敵と対峙することになるし、幾度となく絶体絶命のピンチにも陥るのだが、外から起死回生のニューヒロインが現れることはない。ゲームとしての流れを考えれば、セイレーンの旧知の仲間であるシンデレラとグレイブが駆けつけて共闘したほうがドラマチックだが、そうはならない。
 なにも持たないが誰より必死に生きることにしがみついたモリーと、それに感化され呼応して一緒にしがみついたセイレーンとミハラとユニが、もがいて、あがいて、どうにかこうにかギリギリで事態を解決する。

 とても好きな終わり方だ。
 物語として派手ではないし、泥臭いが、モリーの生き方がこの世界に認められたみたいで。
 

コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    モリーはほんといいキャラよな
    今ニケで一番好きかも

  2. 名無しのゲーマー より:

    モリーいいよね…
    これからは報われてほしい…

  3. 名無しのゲーマー より:

    王道of王道
    だけどハッピーエンドで大好きなイベントストーリーだった

  4. 名無しのゲーマー より:

    ありがとう。

  5. 名無しのゲーマー より:

    純粋な良記事

  6. 名無しのゲーマー より:

    去年のキロとタロスの真面目記事良かったけど今年は無いのかなと思ってたからあって嬉しい

  7. 名無しのゲーマー より:

    そしていつも通りハードモード最後のストーリーが不穏で終わるんだよね
    全員でハッピーエンドになってくれ

  8. 名無しのゲーマー より:

    今回のイベントは真面目に語って欲しかったので本当にありがたい

  9. 名無しのゲーマー より:

    シンデレラが来ないの最初はなんでだよと思ったけど
    モリーのためには来ない方が良かったんだろうな
    凄いよモリーは

  10. 名無しのゲーマー より:

    ネタバレ配慮で最終日まで待つ姿勢に真面目さが出ている

  11. 名無しのゲーマー より:

    ゲムぼく。文才記事
    ニケの周年にしては酷い目にあうニケが居ませんでしたね

  12. 名無しのゲーマー より:

    きれいなゲムぼく

  13. 名無しのゲーマー より:

    >セイレーンとモリーとミハラとユニの4人で始まり、同じ4人で終わる。

    そう!
    ここなんだよ…ここが一番いい…

  14. 名無しのゲーマー より:

    モリーの個人エピソードの最後がすごく嬉しいんだ
    あの場面はきっと、指揮官とシンクロした気持ちになったと思えた

    再会するその時を待っているぞ、モリー

  15. 名無しのゲーマー より:

    まさかゲムぼくさんがモリーについて語る日が来るとは

  16. 名無しのゲーマー より:

    ニケの周年イベ登場人物全員生還でハッピーエンドなのかなり珍しいと思った(小並)
    なおCV東山爆乳ランドセル性癖破壊双子姉妹は人類の敵となった模様

  17. 名無しのゲーマー より:

    真面目な長文感想書ける人ここ以外にあんまり無いから助かる
    みんなXで一言書いて終わりだからなぁ

  18. 名無しのゲーマー より:

    最後まで綺麗で開くブログ間違えたかと思った

  19. 名無しのゲーマー より:

    めっちゃ真面目!でもそれも良い

  20. 名無しのゲーマー より:

    お前はどうしてこれが書けるのに普段ああなんだ

  21. 名無しのゲーマー より:

    一人を真面目に掘り下げる時のげむぼくは読み応えがある
    それ以外全部きもいけど

  22. 名無しのゲーマー より:

    どうしたゲムぼく
    毎日こういうのにして

  23. 名無しのゲーマー より:

    こういう熱い考察記事出る度に、「モリーとレヴィが出会ったらどんなドロドロが展開されるか」とか「モリーとセイレーンがずぶずぶの共依存地獄に落ちたら」みたいな下世話な妄想をゲヘゲヘしてる俺より、普段むちむちに発狂してるゲムぼく。のほうが人間的に圧倒的に上というのを見せつけられていたたまれなくなる。

  24. 名無しのゲーマー より:

    なぜこれを電ファミに出さなかったのか

  25. 名無しのゲーマー より:

    こういう時に茶化さないのがゲムぼくのいい所

  26. 名無しのゲーマー より:

    モリーの性格と声優さんのお芝居も相まってイベント中ずっと泣いてた……。
    セイレーンが目玉キャラなのは重々承知してるけど、モリーがこんなに魅力的な子だと思わなかった。

  27. 名無しのゲーマー より:

    純粋な良記事で魂が浄化された

  28. 名無しのゲーマー より:

    モリーには何かものすごい生命力が備わってそうで
    どんな逆境に放り込まれても生還しそうなキャラ立ちをしたね
    だから次はこの激ヤバ任務に行ってもらうね……

  29. 名無しのゲーマー より:

    何かの間違いかと思って、ブログ名を三度見してしまった。

  30. 名無しのゲーマー より:

    マツコすき
    仮にむちむちじゃなくてもすき

  31. 名無しのゲーマー より:

    ありがとうな

  32. 名無しのゲーマー より:

    ゲムぼく。     わかるよ

  33. 名無しのゲーマー より:

    生きてても何もいいことがない、と言っていたモリーからの最後の一言がすごくいいんだよね…
    シンデレラ来てくれないのかと何度も思ったけど、これは四人のお話だからと納得したし、でもやっぱり再会してほしいよなぁと思ってたとこにあれは泣ける。

    ところで皆、15日に新しいNIKKEが実装されるわけだが…

  34. 名無しのゲーマー より:

    解像度高いな

  35. 名無しのゲーマー より:

    いいイベントだったね…
    ちゃんと自分の意思を伝えて心を動かす場面は何度見たって良いものだ

  36. 名無しのゲーマー より:

    今回のストーリー本当に良かった

  37. 名無しのゲーマー より:

    むちむちミハラの話が始まるかと思ったら良い記事だった

  38. 名無しのゲーマー より:

    たまに出てくる真面目なゲムぼく。めっちゃすき

  39. 名無しのゲーマー より:

    まともにいい記事を出されるとコメントに困る

  40. 名無しのゲーマー より:

    いい文章

  41. 名無しのゲーマー より:

    毎イベントこういうの書け

  42. 名無しのゲーマー より:

    今回のイベストは本当に泣いた

  43. 名無しのゲーマー より:

    これがゲムぼくに載ってるの脳がバグる

  44. 名無しのゲーマー より:

    メガニケの真面目記事ほんとすき

  45. 名無しのゲーマー より:

    モリーは個別エピ込みで本当に良い

  46. 名無しのゲーマー より:

    ハーフアニバのたびに出る真面目記事シリーズ好き

  47. 名無しのゲーマー より:

    素敵な記事をありがとうございます。
    モリーが大好きなのですがモリーの良さを深く語っている人がなかなか居なかったので救われました。
    諦めずに探して良かったです。

  48. 名無しのゲーマー より:

    むちむちじゃないキャラもちゃんと見えてたんだな…ゲムぼく…

  49. 名無しのゲーマー より:

    歴代ハフアニバのストイベの中でも今回一番良かった気するなぁ

  50. 名無しのゲーマー より:

    途中で新ミハラのむちむち具合に壊れるパターンかと思ったらそんなことなかった

    実際今回のストーリー良すぎたもんなぁ

  51. 名無しのゲーマー より:

    ゲムぼくさんがニケ題材の真面目な記事を書いてる…、別人か?

  52. 名無しのゲーマー より:

    NIKKEのハフアニバのストーリーはいつも良いので楽しみにしてましたが、今回もとても良かったですね。何度泣いたことか…
    モリーの良さを言語化してくださり本当にありがとうございました!

  53. 名無しのゲーマー より:

    こういう感想でいいんだよこういう感想で

  54. 名無しのゲーマー より:

    これだからゲムぼく。さんの記事は定期的に読みに来るんだよな。
    全ての解釈が一致とまではいかなくとも根本的なところ、大事な部分は見事に同じ。
    そして違うところからも新たな気付きを得られる。

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