「目的のためなら手段を問わない」という言葉は、悪いイメージを持たれることが多い。「冷酷」とか「残虐」とか。
おそらく、さまざまなフィクション作品において悪の親玉のような人物がそのように描かれ、そういう人物は法に触れるような行為にも手を染めていたり、そもそもの目的が非人道的だったりすることが多いからだろう。まあ、それはさすがに冷酷だし残虐である。
しかし、たとえば。我々の実生活に当てはめて考えてみる。
どこかの会社で「お客様の最終的な満足のためなら、私は営業でも開発でも経理でも総務でもなんでもやります。つねに自分にできる最大のパフォーマンスを発揮するだけです」を貫く社員がいたとして、その人は冷酷でも残虐でもないだろう。むしろ顧客中心の極みとも言える誠実な人であり、その点でとても優しい人だ。
同様に、どこかの警察署で「市民の安心と安全のためなら、私は刑事課でも交通課でも警備課でも情報通信課でも総務課でもかまわない。どれにも貴賤や優劣はなく、すべて必要だから存在する。私はつねにやるべきことをやり、すべての仕事を市民の安心と安全につなげていくだけだ」みたいな警察官がいたとして、それを冷酷だの残虐だのと思う人はいないはずだ。むしろ理想の警察官と言ってよい。市民の側からすれば、こんなに信頼できる優しい人はいない。
ただ、この手の人の常として、「それが当たり前だと思っているので、わざわざ自分からは説明しない」というのがある。
正しい目的のためならば、できることをすべてやって最大の成果をめざし続けるのは当然だろう、と。目的につながる限りは、私個人がどの仕事をやりたいとかやりたくないとかは心底どうでもよい、と。
徹底した目的主義だ。そして、誰よりも顧客の最終的な利益を第一に考えている優しい人だ。
が、いかんせん説明しないので、周りから「淡々としていて怖い」「感情が表に出なくて不気味」などと言われてしまったり、ひどいときには「信念なく仕事をしている」と誤解されてしまったりする。実際には、そう言ってくる人よりもよほど強い信念を持ち、実践し続けているのに。
なんとも損な生き方である。もうちょっと器用に生きられないものか。こんなのだとたぶん、思想や取り組み、その根底にある優しさが、まっとうに理解・評価されることは少ないはずだ。
でも本人は、それすらもどうでもいいと思っている。自分が評価されることは目的ではないから。他者からの評価が手段として使えることはあるだろうが、目的はつねに顧客の最終的な利益だから。
そういう損な生き方をしている典型が、『ブルーアーカイブ』の尾刃(おがた)カンナである。
期間限定イベント『Say-Bing!』では、ヴァルキューレ警察学校 公安局長のカンナが臨時出向によって生活安全局に異動となり、ウォーターパーク現地でのライフセーバーという、ふだんとはまったく違う仕事に就く様子が描かれる。
ここでは、カンナの生き方を象徴する言動がいくつか出てくる。
たとえば、「もとより内容に文句などない。与えられた任務をこなすまでだ。」との発言。
これはライフセーバー業務に対して向けられたものだが、ここからはやはり、彼女が目的主義的な思想を強く持っていることが再認識できる。
職種だの目の前の業務だのは手段でしかなく、ヴァルキューレの職務はすべて市民の安心・安全のために存在しており、ならば自分がまずやるべきはそれを全うすることである、と。
じつは当初、カンナはライフセーバー業務に気乗りしていない様子が見られたのだが、それは「やりたくない」といった気持ち的な理由ではなく、「自身の適性・スキルから考えると適任ではないはず」という、パフォーマンスへの懸念から来るものだった。
これもやはり目的主義だ。自分の感情ベースで意見をしている場面はひとつもない。
また、カンナは、自身の非を認めることや、目下の者に教えを乞うことを驚くほどためらわない。イベント内でたびたび描写される。
これも、目的主義の顕著な表れだ。自分のプライドより市民の安心・安全が大切であり、その実現のためならなんでもやるべきだからだ。
しかし、いっぽうで。
カンナが副局長のコノカに「入学した時は生活安全局に志願していたのだから、それを体験するよい機会ではないか」と言われ、沈黙したのちにやや納得する描写があった。ここは明確に感情が入っている。
この反応からは、彼女の目的主義思考が生来のものではなく、おそらくヴァルキューレで徐々に醸成されていったものであろうことが伺える。
最初は単純な憧れから、生活安全局に行きたかった。でも、不合格になってしまい、なんとか公安局に入った。
落ち込んだが、そもそもなぜ自分は生活安全局に行きたかったのかを振り返り、それは市民の安心と安全を守りたいからで、生活安全局は特に市民との距離を近く感じられるからだと整理した。
となると、公安局の仕事だってやりがいはあるはずだ。市民との距離は近くないかもしれないが、市民の安心と安全には確実に貢献する仕事であり、なんならやり方によっては生活安全局より広範に貢献できる場面もあるはずだ。
公安局に拾ってもらえたということは、少なくとも組織から見れば私はそちらに適性があるということなのだから、市民の安心と安全のために、私はここで全力を尽くそう。
ゲーム内で明確に語られたわけではないが、おおよそそういう心境の流れがあったのだろうな、と推察できる。仕事への向き合い方としてもたいへんすばらしい。
でもきっと、ほんのわずかだが、彼女の中には心残りがあったのだと思う。
公安局の仕事に誇りを持っているし、仕事に貴賤や優劣はないと思っているし、市民の安心と安全を追求する姿勢にも嘘偽りはないが、「もしかしたら、私は生活安全局に行きたかった自分を納得させるために、それっぽい理屈をむりやり自分の中で作って憧れにフタをしただけなんじゃないか」という、自分自身への疑念が。
そのうえで、短期間だがライフセーバー業務を通じて生活安全局の業務を行ったことで、彼女はさまざまな体験と気づきを得ていく。
憧れていた距離の近さで、市民と触れ合って。失敗をたくさんして。自分には向いてないな、不合格になるだけのことはあるな、と自嘲して。でもやっぱり、市民の顔が見えるっていいな、と感じる部分もあって。助けたり守ったりした市民から直接「ありがとう」と言われるのってこんなにうれしいのか、と感動したりして。
そして、すべてが終わったあとカンナは考える。
自分が本当にやりたいことはなんだったのか。やっぱり、生活安全局の仕事がやりたかったのか? それとも、じつは公安局の仕事がやりたかったのか?
本当の答えは彼女の中にしかないが、表情を見るに、たぶん、どちらでもあり、どちらでもないのだろう。
真にやりたいのは「市民の安心と安全」であり、そのためには、生活安全局も公安局も同じくらい必要で、同じくらい魅力的な仕事だ。それがわかった。
たぶん、いままでは「公安局だって、生活安全局と同じくらい……」という考え方だったはずだ。似ているが違う。無意識に、憧れの生活安全局をちょっと上に置いている。自分に言い聞かせる要素が入っている。
でも、今回の体験を通じてフラットになった。理屈ではなく本心で、憧れも後悔もなく純粋な実感として、どちらも同じ目的、どちらもすばらしい手段だと理解できた。
だから、笑っていたのだろう。おもしろくて。
あれは、単に助けた子どもにお礼を言われたことを思い出して笑ったのではない。人生の愉快さに笑ったのだ。
自分のいま歩んでいる道は間違いじゃなかった。そして、選ばなかった道も同じくらい間違いじゃなかった。どっちが正解だったのだろうかと気にしていたが、じつはハナからどっちも正解だった。
そりゃあ、おもしろいに決まっている。いまの自分への自信を深めつつ、「もしも」の自分を想像してニヤッともするはずだ。
浦和ハナコと浦和ハナコ(水着)もそうなのだが、ブルーアーカイブは、通常版の生徒がじつは深いところで抱えたままになっている心残りやモヤモヤを、衣装違い版で解決・解消に近づけてあげる展開がしばしばある。
個人的にはとても好きだ。人知れず生きづらくしていた人に理解者が増え、少しずつだが救われていく。現実もそうであるといいな、と思う。
コメント
どうしたゲムぼく
苦労人にはプラトニックな愛情を向けがちなゲムぼく
あの恥も外聞もない乳袋と鼠蹊部や骨盤とSDのお尻最高だったよね!
って言いにきた私が助平みたいじゃないですか
ハナコとカンナ好きすぎだろ
泣かすな
>ブルーアーカイブは、通常版の生徒がじつは深いところで抱えたままになっている心残りやモヤモヤを、衣装違い版で解決・解消に近づけてあげる展開がしばしばある。
目から鱗だ
確かにそうかも
このゲムぼく。何か変……
とてもいい話なんだけど、とてもいい話ほど読み終えるまで緊張感あるんだよな。なんでだろうな。
そして最後までいい話だったので、逆に明日以降に来るであろう予想できる更新は安心して読める。
真面目記事狂おしいほど好き
毎日書いて
ハナコと言いカンナと言いみんながエロい目で見てるキャラの時だけ真面目になるの何なんだ逆張りか?
最後まで読み切った第一声が1コメの方と全く同じだった…
それはそれとして、とても刺さる言葉の数々でした。ありがとうございました…
”覚悟”の話がどこかで来ると思ってたら終始真面目だったので、やり場のない怒りをゲムぼく。さんに感じました。
読者の裏をかく事に全力を尽くす男
考察が深すぎて本当にゲムぼくか疑うレベル
スムーズに水着の話に移ると身構えて最後まで読んだ
ゲムぼく。さん、苦労人に対する愛情が毎回凄いんだよな。
自分と重ねてるのだろうか。
※ゲムぼくさんは能力があるのに生き方で損してる人の話をする時真面目になる習性があります(ハナコやメガニケのドロシー等)
あまりの温度差に風邪引きそう
それはそうとカンナがずっと自分を卑下する気持ちが少しでも緩和、解消されるのなら本当に嬉しい
真面目だ…
> 現実もそうであるといいな、と思う。
この一文をどう取るかは読者によってだいぶ分かれそうですね
いい文章でした
祈っています。
水着カンナに一番狂ってそうな奴が一番真面目に考察してる恐怖
悪いもの食べた?
すみません、見るブログ間違えたみたいです
久しぶりの真面目なゲムぼく。文学だ
公安局も割と良いとこなんだなと思いなおせたイベントだった
あれ、なんか普段と様子違うみたいね
どこかで発狂するかな?って思ったけど最後まで理性がありすぎて恐怖
両方やると長くなるから真面目といつもので2記事に分けるパターンか……?
どした?何か悪いモノでも食べた?話聞こか?悩み事あるなら誰かに相談するだけでも違うぞ?
ハナコとカンナを足して2で割ったらゲムぼくになりそう
ゲムぼくさんのこういう真面目な考え方、なんだかんだで好き
さて明日が楽しみだ
興奮値がカンストして0に戻った?
カンナの笑った理由に関する考察面白かったです。
明日は宴だなー
いつ「うっそでーーす!むちむちむちむち…」って言い出すか冷や冷やしながら読める個人ブログはここだけだよ
水着姿で身構えたが最後までまじめだった。
さて、明日の記事はどうなるか
これは明日には水着カンナに狂う記事が出る
俺は詳しいんだ
このゲムぼく、なーんか、変、なんだけど…
うーん、どこが変なんだろう☆
明日は「カンナ」だけの記事が上がるな
それはそうと解釈が深くて流石ゲムぼく
いつもながら素敵な文章ですね。カンナの過去記事も振り返りたくなりました。
嫉妬とかもせず、生活安全局の面々にもちゃんとリスペクトしてるのも良いですよね。
(ゲムぼく。は ちからを ためている)
多分これこの前みたいにアア〜…カンナ…カンナ…ってなる流れだ!
いや、でも5月8日の時みたいに真面目モード継続もあるか…?ゲムぼくの心理が分からないよ〜〜〜!
ゲムぼくさんのガチ恋したキャラにはふざけずに真面目に人生応援する所
キモいけど嫌いじゃないよ
ムチムチがオーバーフローして真面目になったか
ムチムチが天元突破して賢者モードになったのかな?
カンナ好きなのでここまで深堀りしてくれてる文章読めるのありがたい
さて明日の反動に備えるか
ファイヤーホイッスル以来の終始真面目記事だ
人生でちょっと色々あった身なので真面目に少し泣いてしまった
良記事ありがとう
やめてよ
おっぱいの話してよ
カンナ好きと人生苦労してる人には刺さるが
9割困惑しか生まない記事
管理人変わりました?
ゲムぼくの家族をを解放しろ
ゲムぼく。に上がっているのが不思議な記事だ
たぶんカンナに銃を突きつけられて真面目な記事を書かされている
どした?話聴こか?
チーちゃんの真面目記事も書いて?
どうせ明日にはIQ3な文章投稿するであろうという共通認識がある
む、むち…
すごい真面目だ。道端の変なものを食べてしまったか
ヤバい、ゲムぼく。のアカウントが乗っ取られてる…
内容は同意なのだが、いつ水着や食い込みに触れるのかと思ってドキドキしたぜ
マジでゲムぼく。さんの真面目記事好き。もっと書いて欲しい。
…いやー、明日が楽しみだなぁ…(遠い目
ゲムぼく。が真面目になるから雨が降るのではない。
雨が降っているから、ゲムぼく。が真面目になるのだ。
ゲムぼくさんの真面目記事、雨の日に捨て猫拾うヤンキーのような綺麗な印象を感じる。
…まぁ結局ヤンキーはヤンキーだし、ゲムぼくさんの本性は勝手知ったるものだから一切評価は変わらないけどな(辛辣)
いい考察でした
カンナの心残りに触れるという点でも良いイベストだったというのは確かに賛同できる
ところで水着カンナ引いた感想が見当たらないな?(すっとぼけ)
むち狂いで苦労人のゲムぼく。さんが好き!!!!
逆張りすな!
お約束の天丼をまだか、まだか止まってたら最後まで読み切ってしまった
お賢者タイムに執筆しておられました?
最近真面目記事多くない?好きです
どうせ最終的に乳袋と覚悟の角度の話をすると思ったのに
考察力に定評のあるゲムぼく。氏の真面目記事ですね。
> 現実もそうであるといいな、と思う。
これには完全に同意です。良記事に感謝を。
ゲムぼく。さんはキャラクターの心情を凄い踏み込んで分かりやすく言語化するので凄いんだけどいつもと違いすぎて戸惑う
笑った理由、そうだよなと感心しました
オチを身構えてたらやられたわ
良い記事だった
翻訳されて韓国でバズってるっぽい
いつ猫の金玉が出るかと思ってスクロールしてたのに
俺もまだまだ浅いな…
カンナ好きとしては真面目な考察に感謝せざるを得ない
暑くなってきたから夏風邪ですかね?
性欲が減退して賢くなってしまってますよ
色んな意味で賢者タイム
今年は記事大賞候補が多すぎるな
なんだよ…ゲムぼく。って結構真面目じゃねぇか…
少し泣いた
どうしたゲムぼく、後半はカンナに狂う回じゃないのか?
悪いものでも食ったか?
これだからゲムぼく。はやめられない
うっそで〜〜〜〜す、がいつ来るか身構えてたら記事が終わってた
韓国にまた翻訳されてる…向こうでも43コメ付いてて草ですよ
真面目記事シリーズ好き
イメージに反してブルアカに真面目に向き合いすぎだろ
みんなカンナの事エッチな目でしか見てないよ
dcinsideに載ってる
ここまでキャラの深みを理解した文章書けるゲムぼく凄いと思う。普段のむちむち記事は知能を捨て去ったかのような事書いてる割に
過去に「アア〜…」と「カンナ〜…」だけで執筆された記事と本当に同一人物か?
ここまで真面目で良い内容の記事を書いてくれたのに、かっ飛ばすための助走と言う思いが拭いきれない。
これもムチムチ狂いのゲムぼく。って奴の仕業なんだ
今更シナリオ読んだから見に来ました。ただのモブキャラである、子供の利用客の一言と、それを聞いたカンナの心変わりにグッと来てしまったので、セリフ貼っててくれて嬉しい。