「2人対戦しよ。3先(さんさき)で」
「オッケー」
「(スマブラにも3先って言葉あるんだ……)」
最近、娘と息子の間で急にスマブラが流行りだした。2018年発売の『大乱闘スマッシュブラザーズSP』である。
なぜいまごろ? と思わなくもないが、どうやら小学校の同学年に熱心に遊んでいる人が何人かいて、その影響らしい。ときどき「夜8時にオンライン対戦しよう」みたいな約束をしていることもあるようだ。楽しそうでなにより。
家事をしながら、ふたりの対戦を横目に見てみる。
シンプルなステージで、「アイテムなし」ルールで、1対1で戦っている。その見た目といい、「3先」という言葉といい、格ゲー(対戦格闘ゲーム)みたいだな。
ちなみに、ぼくはスマブラはあまりやらないが、『ギルティギア ストライヴ』などの格ゲーはよく遊んでいる。スマブラはピカチュウのでんこうせっかの2段目が出せないほどヘタである。
「よし!」
「んん〜……」
おっ、初戦は娘が勝ったらしい。使用キャラは『ゼノブレイド2』のホムラ&ヒカリだ。息子は『MOTHER2』のネスを使っているようだ。
ざっと見た限り、ふたりともぼくよりは確実にうまいが、おそらく腕前としては初心者レベルだと思う。「まあ、小学生の対戦ってこれくらいだよな」という感じだ。ホムラがブレイズエンドやプロミネンスリボルトという強力な必殺技を連発していて、ネスはそれをさばききれずに終わった、みたいな展開だった。
娘に勝利者インタビューしてみよう。
「ホムラはブレイズエンドとプロミネンスリボルトが強いの?」
「そう。ホムヒカうまい友だちが、とりあえずこのふたつ、って言ってて」
なるほど、学校の友達から攻略情報を得ているのか。
ゲームのそういう話、楽しいよな。ぼくも最近ギルティギアのオフライン対戦会に参加して、いろんな人とキャラや技の話で盛り上がったから、わかるぞ。
そのあともふたりは何回か対戦していたが、ちょこちょこ見た限り、友達から得た知見を活かして立ち回る娘のホムラが勝ち越していたようだった。
約1週間後。
またふたりがスマブラをやっていた。やはりホムラ&ヒカリとネスで対戦している。
おっ、ふたりとも、まえ見たときよりちょっとうまくなっている気がするぞ。子どもの成長は速いな。
そして……あれっ? ネスが勝ち越すようになっている! いや、勝ち越すというレベルではない。ほぼ全勝と言って差し支えない勢いだ。
「ぐぅ〜」
娘が唸っている。息子は黙々と再戦の準備をしている。
この急成長の秘訣はいったい……?
「ネスめっちゃうまくない? すごいねぇ」
「トレモでいろいろ調べた」
「ほ〜、トレモ!(スマブラでもトレモって言うんだ……)」
トレモとは「トレーニングモード」の略である。格ゲーで言うと、そこでコンボの練習をしたり、技のモーションや攻撃範囲を調べたり、特定のキャラの対策を練ったりするわけだが、似たようなものがスマブラにもあるらしい。
息子は、そこでネスの基本操作や、ホムラのブレイズエンドやプロミネンスリボルトのしのぎかた、回避後の反撃に適した技などを自分なりに研究したらしい。格ゲーマーか?
我流なのでキレイに言語化できているわけではなさそうだが、話を聞くと「この距離ならブレイズエンドを読んで前にジャンプしてこの攻撃を当てればガードされても不利にならない」くらいのことまでは考えているようだった。か、格ゲーマーだ……!
その日は、息子の研究の成果が存分に発揮されたようで、最後までネスが安定して勝っていた。娘はいささか不満げであった。
しかし、翌日。
たったひと晩で、娘がそれなりに勝つようになっていた。ずっと見ていたわけではないので勝ち越しかどうかはわからないが、おおよそ五分五分くらいにはなっているように見えた。
明らかに、ホムラの攻撃パターンが増えている。なぜだろう。
「YouTubeでホムラのコンボ動画をさがした」
は〜、なるほど! 賢い! えっ、見ただけですぐマネできるの!?
「さすがに練習したよ、ちょっと」
ちょっとでいけちゃうんだ。すごいな。子どもの成長は速い。
ふたりはしばし対戦をしたあと、ひとり遊びに移った。娘はYouTubeを観て、息子はトレモをやっているようだった。
おもしろい……プレイスタイルの違いって、こんなにわかりやすく出るんだな。
友達の声やネット上の動画を活用し、物覚えの早さも活かし、強い技やコンボを効率よく習得する娘。動画を観ないわけではないが、それよりはトレーニングモードやCPU戦でいろいろ検証して、根本のしくみから理解していくのが好きそうな息子。
どっちもいい方法だ。すぐに強くなれるのは娘な気がするが、もし突き詰めることができたら息子はすごいことになりそうだ。
なお、格ゲーにおけるぼく自身のプレイスタイルは圧倒的に息子派である。攻略情報を見るより自分で仮説を持っていろいろ試すほうが好きだし楽しいので、ずっとそうしている。なんなら格ゲー以外のジャンルもほぼすべてそうしている。
なので、気持ち的には息子に肩入れしたくなってしまうのだが、たったひと晩で五分五分まで持ち込む娘の姿を見ると、やっぱり動画は理にかなっているのだな、とも納得する。
そしてなにより、ふたりとも楽しそうなのがいいよな、と思った。
同じゲームの話ができて、しかも同じくらいの腕前の仲間がクラスメイトも含めて身近にいるとなれば、そりゃあ楽しいに決まっている。
そして、楽しむことは成長に直結する。漫画『刃牙道』の「努力する者が楽しむ者に勝てるワケがない」という言葉を思い出した。このふたりはいまのところ、間違いなく「楽しむ者」だ。
また、地味に感心したのが、ネガティブな言葉がぜんぜん出てこないこと。
対戦が白熱すれば、その勝ち負けや内容によって文句のひとつも言いたくなってもおかしくないが、ふたりともぜんぜん言わない。「あの技あんまり使えなかったから次はうまく使おう」と自省したり、「さっきの最後の技ってなに?」と質問したりしている。あまりにも健全な対戦風景だ。
彼らのプレイスタイルの違いやゲームの楽しみ方に感心していたら、ぼくもちょっと参加したくなってきた。
ひさびさにやるか、スマブラ! いくぞ、ピカチュウ! ホムラ&ヒカリとネスを倒そう!
数十分だけだったが、対戦はおおいに盛り上がった。それはそれは健全な……
「うわ、またよけられた! ブレイズエンドぜんぜん当たらない」
「空中PKファイヤーもっと早く出したいな~」
「は? でんこうせっかの2段目が出ないんだが? このピカチュウなんか変じゃない? コントローラー壊れてるかも。ちゃんと入力したのに。絶対入力したって! おい! コントローラー!!」
それはそれは健全な2名と不健全な1名で盛り上がった。
コメント
文句のひとつも出さないのすごくいい子だなあ
ちなみにピカチュウのでんこうせっかは1回目と2回目の角度差が2°以上ないといけないらしい
いい親子関係だ
見習いたい
突然発作みたいに来るまともなコラム好き
最後一人だけ薄汚い言い訳野郎がいますね…
いい景色ですね。
あれだけ格ゲーやりこんでもまだ電光石火の2段目だせないのか…
ピカチュウ以外でも良いのに
パパぼく。記事すき! ドスぼく。もすき
1年半ぶりのゲームコラムだ!
ブレイズエンドを擦る戦術は初心者帯では実際最強に近い
いい技選択をしている
スマブラも格ゲーもするけどトレモは苦手だわ…
心持ちで既に負けているかもしれない
いつも影からこっそり見ています。
学ぶことに対する肯定的且つ多角的視点の有り様はとても素敵なもので、自分の人生に関わった多くの人間には
自分含めて色々な意味で足りておらず、今尚そのような視点を欲しがってしまう自身の深層にあるそれをふと想起させられます。
これからも応援しております。
ただそれはそれとして、個人的にはでかくむちむちなのがいいのは乳であると言うその一点においては
全部むちむちが至高であるというゲムぼく。さんとは生涯同意し得ない隔たりがあるのだなぁと思います。
それでも喧嘩しないでいられる今の世の中は、きっと良い世界なのだと思います。
二人とも惰性でやらずにちゃんと研究をするあたり
パパぼくと同じところがあって微笑ましい
ムチムチ大魔神であることは同じでなくていいからね。
薄汚いシンデレラ!
ま、まあ実際ジョイコンすぐ壊れるから…
>我流なのでキレイに言語化できているわけではなさそうだが、話を聞くと「この距離ならブレイズエンドを読んで前にジャンプしてこの攻撃を当てればガードされても不利にならない」くらいのことまでは考えているようだった。
もう俺より格ゲーが上手い
ゲムぼくは初代のデブピカチュウでデブ専に目覚めたのでピカチュウ使いな事で知られる
すみません普通にいい話だったので来るブログ間違えました
子供との対戦でカスの小物ムーブするゲムぼく嫌いじゃない
自分はやってるとどうしてもイラッとしちゃう時があるから見習わないとな、お子さんを
いつかピカチュウ使いこなす日が来るんだろうなー
思った動きができないとコントローラーの所為にする格ゲーマー仕草…!
ギルティで天上界まで行ってもでんこうせっかは出せないのか…
大人って悲しいね…。
敗北の言い訳をコントローラーとキャラにしだしたら、子供より子供
オチを付けるために小物化するブロガーの鑑
「ネガティブなこと言わない」はゲムぼく。さんの影響が強そう
(いつも楽しい記事しか書かないから)
トレモはファミコンで任天堂が発売した格ゲーからもうあるんだよね
とりあえずピカチュウ以外を使った方がいいんじゃないですかね…
どっちが保護者か分からない定期
デブピカチュウの幻影に取りつかれてピカチュウ使いなの草
レバーかコントローラーどっちかのせいにする典型系なムーブありがたい…
こういう穏やかめのほのぼの好きだから記事もっと書いて欲しい
今年の記事大賞にこれ投票します
『ちなみに僕は子供の頃に友達とゲームで遊んだ経験が無いんですわガハハ』とかそういう話ではなかった
幸せな家族風景で良かった…
入力ミスした時にこの技出して無いんだけど!?
は悲しいがよくある。
相変わらずパパぼく。記事はホッコリするなぁ〜
久しぶりにスマブラやりたくなってきた
小学生ってアイテム使わない対戦やるのかとカルチャーショック受けている
ご都合よければスマブラも配信で対戦経験をむちむちにしてみませんか?
二人で楽しく切磋琢磨できる環境うらやましい
自分が子供の頃は妹と対戦ゲームすると何のゲームも俺が圧勝して妹がギャン泣きするのでケンカになった
そのうちRPGとか1人用のゲームを各自勝手に遊ぶようになったが、今度は何のゲームも妹の方が圧倒的なペースでクリアして俺が置いてけぼりにされるのでケンカになった
ホムヒカを差し置いてピカチュウを貫くのか……いけないな、咄嗟に太ももが出てるファイターとウエストが肩幅以上のキャラを羅列しようとしてしまった。3人ともどんどんそのまま楽しんでくれ
ただただいい話、上手く出来たことをインタビューするゲムぼくも素敵
息子さんはより濃くでてるなぁ、子供の頃から追求していけるのすごい
ちゃんと使いこなしたい、強くなりたいという意志があっていいお子さんですわ
しれっとねじ込まれる刃牙道
こんな深夜に読むべきではなかった(健全すぎて爽やかな気持ちになるので)
ほっこりした
ゲムぼくでいい記事を読ますな
うちの子は対戦系(ゲームに限らず)だと数十分で負けてる方が癇癪を起してしまうのよね
僕もネット対戦で負けがこむと画面の前でブツブツ文句言っちゃうし
お子さんの精神性素晴らしいね
パパぼく記事大好きでしてよ〜!!
最後まで正気を保つとは思ってなかったのでビックリしています
なんて素敵な記事なのだ
普段からずっと正気だって? そうか……
いい子たちすぎるしいいお父さんだし、素敵な親子だなあ
ゲムボクさんのスマブラ部屋楽しそうだし機会があればやってみたいなあ、ゲムボクさんがスマブラハマればの話だけど
ゲーム画像が最初のひとつだけで、それ以外はぜんぶ文字だけで埋まってる記事は珍しいね。
今回は主役がゲムぼく。ではなく子供たちだから?かも知れない
「ねこちゃん。」の記事を思い出した
あんたのおかげやで