愛に矛盾と信仰を抱える人の「呪い」。[勝利の女神:NIKKE]

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「絶望して人生を諦めた人に……生きていていいんだよって……伝えたい……から。寂しい気持ちの人に寄り添って……疲れた人を慰めてあげたいから。それから、いつか……生きててよかったと感じて欲しいから。プリティーが、私にそうしてくれたから。」

 アニスがアイドルになった理由を語る感動的な場面だが、個人的には「恐れ」と「安堵」を覚えた。
 恐れとは、「アニスは呪われている」ということ。安堵とは、「これがフィクション作品でよかった」ということ。
 フィクションだから、アニスは指揮官(プレイヤー)との幸せが保証されている。もし現実だったら、彼女は死ぬ。
 

 『勝利の女神:NIKKE』のサイドストーリー『PRETTY STAR』と、その続きにあたるイベントストーリー『ALL EYES ON ME』を読んだ。
 ひとことで言えば、「きつかった」。重なることや、思い当たることが多くて。
 ふだんから、なにかしらのストーリーの感想を書くときはネタバレに配慮して実装から日を空け、やや旬を過ぎたくらいでひっそりと投稿するようにしているのだが、今回は配慮と言うより、単純にしんどくて時間がかかった。

 ここからは、個人的な経験にもとづく推測を多分に含むし、そんなに楽しい話にならない。
 少なくとも、生きた人間を茶化してふざけたコメントをしてコンテンツとして消費する人とは相性が悪い文章になる。そういう人は読まなくていい。アニスの言葉を借りれば、ぼくの人生に出てこないでほしい。
 

 アニスは、しょうもないありふれた言葉で表すなら「愛に飢えた子」である。
 そんな単純なことじゃないんだよと言いたいが、いったん平易にしないと話が進まないので、そうする。

 生まれてすぐ孤児となり、施設を転々とした。明るく過ごした。そうしないと愛されないから。
 身寄りのない自分が誰かから愛されるには、まず自分が周囲を愛するしかない。明るく振る舞う以外にもやり方はあるのかもしれないが、知るわけがないし器用でもないから、これしかない。

 運よく、よい学校に入ることができた。もっと明るく過ごした。そうしないと愛されないから。
 積極的に話しかけ、なんでも手を挙げた。もちろん大変だし、手に負えなくて失敗することも多いが、身分もない自分が誰かから愛されるには、周囲のために身を尽くすしかない。

 弱小事務所の小規模グループだが、アイドルになれた。もっともっと明るく過ごした。そうしないと愛されないから。
 特別な才能のない平凡な自分が誰かから愛されるには、一生懸命に努力してみんなの役に立つしかない。努力したから報われるとは限らないが、私みたいな人間は努力しないと報われるわけがない。

 誰かに愛されたいから、過剰なまでに自分から周囲を愛する。個人的には深く共感する。ぼくも同じ行動原理だ。
 なお、ここで「無理に明るく振る舞わなくても、泣いたり寂しがったりしてかまってもらえばよいのでは」と思う人もいるかもしれないが、それは違う。
 それでもらえるのは「情け」であって「愛」ではない。愛は、泣きわめけばもらえるようなラクなものではない。そんなんで済むなら、とっくにそうしている。愛は、誠実に努力を重ね続け、それがいつか運よく報われてようやく得られるもののはずだ。
 

 そして、それこそが「呪い」である。
 アニスは致命的な矛盾と信仰をひとつずつ抱えている。

 「誰か」に愛されたいだけなのに、その方法がわからないから、「みんな」に愛されようとするしかない矛盾。
 「世界の根っこは善であり、誠実に努力を続けている人が報われる世の中であってほしい」という信仰。

 ふたつとも、多くの人にはピンと来ないだろうが、アニスに近い生き方をしている人なら気づくだろう。
 症状があまりにも典型的だし、自分と重ね合わせてみて心当たりがありすぎる。
 

 矛盾のほうは、比較的わかりやすい。
 ひとりに愛されたことがないから、ひとりの愛し方がわからない。自分から誰かを愛していいのかすらわからない。
 結果、施設でひたすら愛想よく振る舞ったり、学校でなんでもかんでも引き受けたり、果てはアイドルになったりしたうえで、とにかくみんなに対して身を粉にして、運よく誰かから愛されるのを待つことしかできない。

 これは特に、かつてのクラスメイトであり、のちにマネージャーとなったリスとの関係性が顕著。
 ハタから見れば、リスは早い段階からアニスを慕っているが、アニスは確証がないので動けない。「みんな」へのアクションしかできず、自分からリスを頼れない。
 結果、リスは「アニスがアイドルになったら私がマネージャーになるよ」と言ってくれていたのに、アニスはアイドルになったときリスに声をかけられなかった。
 

 信仰のほうは、まったく同じ思想を持っている人でないと気づけないかもしれない。
 アニスは、偽悪的に振る舞ったりヤケになったりすることも多いが、根本の思想としては人の善性と世界の正しさを誰よりも信じている。「努力は必ず報われる」とまで浮かれてはいないが、「努力が報われる世の中であってほしい」とは確実に思っている。

 ドロシーに似ている。ぼくは以前から「アニスとドロシーは根本の思想が似ている」と主張しているが、それがさらに補強された。愛に飢え、人の善性と世界の正しさを信じるふたりだ。
 アニスはプリティー、ドロシーはピナという大切な存在との出会いによって、それをさらに強く信じるようになった点も同じ。もっとも、大切な存在との別れ方が決定的に違ったがゆえに、いまでは表面上はふたりはぜんぜん似ていないように見えるが。
 

 また、この矛盾と信仰は、アニスが中途半端に成功体験を持っているせいで拍車がかかっているのがタチが悪い。
 原体験は、幼少期にふたつめに入った施設で、ひとりの職員にかなりよくしてもらえて、親しくなったこと。もちろんいいことなのだが、ここで「一生懸命に自分からみんなを愛せば、いつか誰かが愛してくれるんだ」という前例ができてしまった。
 これがあるから、アニスは学校でいじめられて半年間しゃべらない状態が続いても、「明日は誰かと話せるかも」と思い続けることができた。できてしまった、と言ってもよいが。

 それくらい、愛に飢えた人にとって「愛された」という体験は大きい。
 たったひとりからの愛があるだけで、すべてが輝く。なんでもできると思える。実際、なんでもできる。

 問題はふたつ。
 「その愛は永遠でないこと」と、「それでもその愛は本物だったこと」だ。

 愛は必ずしも永遠ではない。いつか裏切られたり、薄れて消え失せたり、ときに死なれたりする。ぼくにしろアニスにしろ、あるいはほかの誰かにしろ。想像がつかない人も多いだろうが。
 しかし、その愛は本物だった。愛は永遠ではないが、愛があった事実は永遠だ。なかったことにはならないし、したくもない。人と世界の根っこは善だ。揺らぐように見えるとしたら、それは自分が揺らいでいるだけだ。

 だから、また努力するしかない。
 と言っても、けっきょくひとりに愛される方法はわからないままだから、みんなに愛されるように、みんなを愛するしかない。誰かに愛されるか、誰にも愛されずに死ぬかまで。
 

 幸い、『勝利の女神:NIKKE』は恋愛要素を持ったゲームであることもあって、アニスは指揮官(プレイヤー)との永遠の愛が保証されている。
 もちろん、ほかのキャラとの兼ね合いがどうだの寿命がどうだのと、細かいことを言い出すといろいろあるのだが、プレイヤーが観測できる実質的な範囲においては永遠と言ってよいだろう。

 よかった。救いだ。冒頭で「恐れ」と「安堵」と書いたのは、こういうことだ。
 愛への矛盾と信仰という「呪い」を抱えており、ゆえに現実だとおそらくみんなの前で明るく道化をやり続けて消費されるか、たまに嫌気が差して偽悪的にスレてみせるかしかなく、人として誰かに愛されることを期待しながら孤独に死んでいくであろうアニスだが、彼女の世界では指揮官がいる。
 冷静に考えると、「施設職員」や「リス」が「指揮官」に置き代わっただけなので、じつはこれだけだと呪いはなにひとつ解消していないのだが、まあ、いったん大丈夫だろう。
 いまのアニスにはラピやネオンをはじめ、多くの信頼できる仲間がいる。指揮官によって愛が満たされているうちに、それ以外の人との絆と、それを通じた愛の実感を深め、呪いを解消に近づけていくはずだ。
 それでもやはり、いざ指揮官がいなくなったときのことを思うと、怖くはあるが。

 アニスには、幸せになってほしい。
 彼女が最終的になにをもって幸せとするのかはわからないが、生きててよかったと、最期まで感じていてほしい。
 

コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    分かりきってたことだけどアニスの過去は読んでてしんどいな
    ニケは民衆とか周りの悪意をしっかり描くから

  2. 名無しのゲーマー より:

    良い。

  3.   より:

    光と闇のゲムぼく。だな
    文字数多いのにスラスラ読めるのは
    本当に文才があるんだろうな

  4. 名無しのゲーマー より:

    これが愛について語るゲムぼく。だ

  5. 名無しのゲーマー より:

    「少なくとも、生きた人間を茶化してふざけたコメントをしてコンテンツとして消費する人とは相性が悪い文章になる。」
    ゲムぼくを茶化してコンテンツとして消費してるインターネットへのカウンターだ

  6. 名無しのゲーマー より:

    ゲムぼくの過去を知ってる身として本当に泣いてしまった。
    優しいよあなたは。

  7. 名無しのゲーマー より:

    アニスの過去話は報われた現在があると意識しないと読むのが辛すぎるんですよね

  8. 名無しのゲーマー より:

    コイツアニスのことになるとめっちゃ弁舌になるよな
    そう打ち込むことができたがそれ以上にゲムぼく。の壮絶な人生と噛み合いすぎるもんなんで普通にいい内容だし辛い

    あんたは立派だよ。アニスと同じくらい、立派な人間だ。

  9. 名無しのゲーマー より:

    結局今も根本では指揮官に依存してるだけだからな…恋愛ゲーとしてはそれで良ENDなんだけど

  10. 名無しのゲーマー より:

    「それでもその愛は本物だったこと」という言葉がゲムぼく。さんの口から出てくるのが重い。

  11. 名無しのゲーマー より:

    アニスとドロシーは同族嫌悪っぽい所があるんだよね

  12. 名無しのゲーマー より:

    最近ゲムぼく記事大賞候補多くない?

  13. 名無しのゲーマー より:

    ゲムぼく。の普段の笑って読める記事も好きだけど時々出るこういう笑い抜きで真摯にキャラクターと向き合って深く掘り下げて書いた記事も大好きだ
    同族嫌悪なんて言葉もあるけど「自分と同じだ」と思える部分があるキャラってなんか放っておけなくなるし、自分と重ね合わせて辛くなったりもするけど、そのキャラの幸福をただ祈ることしかできないわけじゃなくてそれが確約されているとわかると本当に救われたようなじんわりと温かい気持ちになるよね

  14. 名無しのゲーマー より:

    >ふだんから、なにかしらのストーリーの感想を書くときはネタバレに配慮して実装から日を空け、やや旬を過ぎたくらいでひっそりと投稿するようにしている

    本題とは違うけど偉すぎんか?

  15. 名無しのゲーマー より:

    自分も訳あって同じく独りで死にゆく身になったので思う所がありました。
    でも恨みとかは無いんですよね。感謝でも無いんですが。

    誠に勝手ながらゲムぼく。様の呪いも解消する事を祈っています。
    自分も頑張ります。

  16. 名無しのゲーマー より:

    辛い人生を送ってきた人に刺さる記事だ

  17. 名無しのゲーマー より:

    アニスとドロシーっていうゲムぼくさんの好きな二人が主役のイベントとメインでしたね
    ドロシーの記事も読んでみたいので、期待してます

  18. 名無しのゲーマー より:

    >少なくとも、生きた人間を茶化してふざけたコメントをしてコンテンツとして消費する人とは相性が悪い文章になる。そういう人は読まなくていい。

    珍しく明言しててバズとかじゃなくて本当に必要な人に届いて欲しいのが伝わってきた

  19. 名無しのゲーマー より:

    ゲ ム ぼ く 記 事 大 賞 2 0 2 6

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