恋多き罪な男、ぼく。

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 ぼくは10代のころ、恋多き男だった。
 ……と言うとちょっとかっこいいが、ぼくが中高6年間を通じて友達がひとりもいなかったことをすでにご存知の方は、その恋とやらがとても正常なものではないことを容易に想像できるだろう。
 お察しの通り、それはなかなか気持ち悪いものばかりであり、実った例も皆無である。
 
 ぼくは当時から、いい具合にキモく仕上がったオタクだった。
 客観性が高いつもりで低く、自らが学校やクラスの端っこにいることは自覚しつつもその原因を自分自身には求めず、他者を無根拠にバカにし自分は特別な存在だと無根拠に信じ、いまは周囲や環境が悪いだけでそのうち自分を認めてくれる人が現れるはずだと待ち望む、それはそれはもうお手本のようなダメ人間だった。
 どうですか。気持ち悪いでしょう。思う存分気持ち悪がっていただいてかまいませんよ。でもそういうオタクってけっこういるんですよ。たぶん。
 そして、そんなぼくみたいなタイプのオタクが誰かに恋する条件というのは、じつはとてもカンタンだ。
 それは、外見や性格がどうこうではなく、「(それが友達としてか異性としてか最低限の社交辞令としてかに関わらず)自分に対して異性がやさしくしてくれる」というものだ。
 そうされると、無根拠なプライドと承認欲求の塊であるぼくたちは、たちまち恋しちゃうのである。「うわっ、この子絶対ぼくのこと好きじゃん!ぼくも好き!」となってしまうのだ。
 ぼくの高校生活をもとに実例を挙げると、たとえば、2週間に1回くらい「おはよう」と言ってくれる女子がいた。これはわかりやすすぎて言うまでもないが、間違いなくぼくのことが好きだ。なので、ぼくも好きだ。
 落ちた消しゴムを拾ってあげたら「ありがとう」と言ってくれた女子もいた。このときぼくは消しゴムを指輪のつもりで渡したから、ぼくたちはもう結婚したも同然である。好きだ。
 特に会話はないけど、1日に2回も目が合った女子もいた。言わずもがな、これは彼女からの「す」「き」のサインである。好きだ。
 帰り道にコンビニでファミ通を買ったら、お釣りを渡すレジのお姉さんの指先がぼくの手のひらに触れたこともあった。これはもう、ほぼセックスである。さすがオトナのお姉さん、大胆である。大好きだ。
 どうですか。気持ち悪いでしょう。思う存分気持ち悪がっていただいてかまいませんよ。でもこういうオタクってぼく以外にもごくまれにいるんですよ。たぶん。
 で、この気持ち悪い恋のいちばんヤバいところは、前提に「相手は自分に恋している」という勘違いがネタではなく本気で存在するところである。「キミがそんなにぼくのことを好きなら、まあ、ぼくも好きになってやらんこともないぞ」という超絶上から目線で恋しているところである。
 
 高2の12月。
 クリスマスを目前に控え、校内ではカップルがいくつか誕生したり、そうでなくても「クリスマスって予定空いてる?」みたいな会話が男女間で交わされたりしていた。
 もちろん、友達がひとりもいないぼくには無縁だったわけだが、ある日なぜか、ひとりだけ、休み時間に「クリスマス、なにするの?」と聞いてきた女子がいた。
 あっ、これはもう、この子絶対ぼくのこと好きだな。どこにデートに行きたいんだろう?何歳くらいで結婚したいのかな?子どもは何人くらい欲しがるかな?名前はなににしようかな?
 ただ、ここで「ヒマだよ」と即答してしまうと、ぼくがモテない奴みたいに思われてしまう。
 というわけで、「あー、えっと、まあ、それなりに予定が……」みたいなフワッとした返事をしていたら、彼女は「へえ」と言ってどこかに行ってしまった。
 ああ、彼女に悪いことをしてしまった。
 勇気を出してぼくに話しかけてきた乙女の純粋な恋心を、ぼくは結果的にないがしろにしてしまった。きっと初恋だっただろうに。昨晩はぼくに話しかけるシミュレーションを何度もして、ロクに眠れなかっただろうに。
 助けてあげなきゃ。ぼくともあろう者が、女の子を泣かせるわけにはいかない。
 翌日の休み時間、ぼくは意を決して、彼女に話しかけた。自分からクラスメイトに話しかけたのは何年ぶりだっただろうか。
 仮に彼女をSさんとする。
「あ、あ、あの、Sさん」
「えっ。……なに?」
「クリスマス、その、えー、予定」
「えっ?」
「クリスマス、予定があったんだけど、いや、調整できなくもないかなーって」
「なんの話?」
「……」
「……ごめん、よくわからないけど、よかったね!」
 どうですか。気持ち悪いでしょう。思う存分気持ち悪がっていただいてかまいませんよ。オタク界広しと言えどもここまでヤバいのはぼくくらいなので、どうか安心してください。
 
 あれから10年以上が経ったいま、思うことは3つ。
 ひとつめは、ぼくあのときよく自殺しなかったな、ということ。すげえな、当時のぼくのメンタル。鋼かよ。いま思い出しながら書いてても「うわっこいつやべぇじゃん死ね」としか思わないのに。
 ふたつめは、こんなキモいやつにキモい絡まれ方をしたのに「ごめん、よくわからないけど、よかったね!」で済ませてくれたSさんは超いい人だったんだな、ということ。世が世なら、ぼくは職員室に呼ばれたりSNSに晒し上げられたりしてもおかしくなかった。
 そしてみっつめは、当時のぼくみたいなのが誰にもブレーキをかけてもらえずにそのまま行きすぎるとストーカーになっていくんだろうなあ、ということ。ぼくはその後幸いにも人に恵まれ、早々に結婚もできたので助かった。危ないところだったなあ。
 
 ちなみにいまでは、ぼくは妻のことが好きすぎる反動でリアルでは妻以外の女性と関わりたくなくなり、お釣りをもらうときに店員さんと手が触れ合うことすら気持ち悪いと思うようになってしまった。
 まあ、向こうもぼくのことを気持ち悪いと思っているだろうからいいっちゃいいんだけど、我ながら極端すぎると思う。真ん中のちょうどいいところに落ち着ける人間になりたいといつも思う。
 
 
 
 
 

コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    >客観性が高いつもりで低く、自らが学校やクラスの端っこにいることは自覚しつつもその原因を自分自身には求めず、

    このくだりが心当たりあり過ぎてアアアアアアってなりました

  2. 名無しのゲーマー より:

    前のが最終回ぽかったから再開して嬉しいです

  3. 名無しのゲーマー より:

    闇の青春シリーズすき

  4. 名無しのゲーマー より:

    > 客観性が高いつもりで低く、自らが学校やクラスの端っこにいることは自覚しつつもその原因を自分自身には求めず、他者を無根拠にバカにし自分は特別な存在だと無根拠に信じ、いまは周囲や環境が悪いだけでそのうち自分を認めてくれる人が現れるはずだと待ち望む

    あああああああ止めてくれえええええええええええええええええええええええええええ

  5. 名無しのゲーマー より:

    闇の青春シリーズは闇から抜けて光の中から書かれてるけど、
    社会人にしながらまさに友達0人で家と会社を仕方なしに往復してる身としては、
    自分の闇っぷりに読むたび心がささくれるわ……

    でもこのシリーズ好き。

  6. 名無しのゲーマー より:

    闇の青春シリーズきた!やったぜ!

    自分でも流石にここまでこじらせなかったなぁと思いつつ、
    現代社会を生きる一般人(?)として、警察のお世話にならずに成長できてることに感動します。

    やっぱ出会う人間って大事だなぁとしみじみ。

  7. 名無しのゲーマー より:

    Sさんええ人や…

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