ともだち500人できるかな。

闇の青春シリーズ

 ぼくは高校時代、友達がいなかった。
 なんだよ、おまえ中学でもいなかったじゃねえかよ、とお思いの方もいらっしゃるかもしれないが、中学でそうだった奴が高校でいきなり友達できるわけねぇだろコノヤローと強く主張しておきたい。

 ぼくが高校に入ったのは2003年。
 世の中高生たちが、ごくあたりまえに携帯電話を持ち始めた時代だった。
 広島の田舎の高校でもそれは同じで、ぼくのいた1年1組はぼく以外の全員が携帯電話を所持していた。前から持っていた人もいれば、入学祝いで買ってもらった人もいたのだろうが、とにかく、ケータイを持っていないのはぼくだけだった。

「ヤバい!出遅れた!」

 入学式の日、みんなが当たり前に赤外線や空メールで連絡先を交換している光景を目の当たりにして、あわてふためいたぼくである。まさか世の中がこんなことになっていたとは。己の情報収集力のなさを痛感した瞬間である。

 その日からぼくは両親の説得を開始し、月末にはなんとか、携帯電話を買いに行くことができた。
 両親や兄はドコモだったのだが、ぼくは「ひそかに好きなクラスの女子(会話をしたことはない)がJ-PHONEだから」という震えるほどキモい理由でJ-PHONEにした。なんでこの子はわざわざ家族割がきかない別会社にするのかしら、と両親はたいそう不思議がったに違いない。

image
出典:http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2003/0424/sh53.htm

 で、ぼくはそのころから家電オタクというかデジタルモノ好きだったので、当時の最先端をゆくハイスペック機であった『J-SH53』という機種を選んだ。
 購入後、さっそく2chでJ-SH53のスレを開いてみたら、同機が「便器」というアダ名で呼ばれていて憤慨した覚えがある。
 まあ、それはさておき、J-SH53は世界初の100万画素カメラ、QVGA(320×240)の超高解像度、音楽プレイヤー機能、32和音+8和音の着信音など、すべてにおいて突出した性能を持つモンスターマシンであった。いま思えば、シャープがもっとも輝いていた時代だったかもしれない。

 そして、もうひとつ。当時の携帯電話の性能の指標のひとつとして、「アドレス帳の登録可能件数」があった。
 当時はモテる女子が使うナンパの断り文句として「ごめーん、もうアドレス帳がいっぱいでー」というのがあったくらい、登録可能件数には限りがあった。
 ところが、J-SH53はなんと500件もの大容量。友達が500人いても大丈夫なのだ。安心である。大安心である。

 ところがところが、ぼくには友達がいなかった。そういえばそうだった。
 初期設定後、さっそく連絡先を知っている人を登録していったのだが、5件しか埋まらなかった。ちなみに内訳は自宅、父、母、兄、近所のレンタルCDショップである。
 残り495件。全力を尽くしてなお99%の空き容量があるという絶望感。恥ずかしいったらありゃしない。

 しかし、まがりなりにも最新機種である。
 そりゃあ、学校に持っていけば、「あ、それすごいやつなんでしょ?ちょっと見せてよ」とクラスメイトに言われるわけである。
 残念ながらコミュ力ゼロのぼくはそこを足がかりに友達を作っていくことができないわけであるが、まあとにかくクラスメイトにJ-SH53をポチポチ触られるわけである。

 そこで訪れる、ある恐怖。

「うっかりアドレス帳を見られてしまったら、ヤバい!ぼっちだとバレてしまう……」

 いま冷静に振り返れば、ぼっちだということはすでにバレバレな気もするのだが、当時のぼくはとにかく震えた。その事態をなにより恐れた。

 そしてその日から、ぼくは学校が終わって自宅に帰るたびに、「ある日課」をやるようになった。

 「アドレス帳への架空の友達の登録」である。

 どうですか。怖いでしょう。怖がっていいんですよ。「えっ、ヤバいヤバいこの人」とか言っていいんですよ。あなたは正常ですよ。

 アドレス帳のNo.005までは埋まっているので、No.006から順に、架空の友達を登録していく。
 ただ適当に名前を入れるだけではバレてしまいかねないので、ひとりひとり、綿密に設定を練らなければならない。
 なので、ぼくはExcelで表を作って、名前、メールアドレス、携帯電話番号、家の電話番号、住所、いつどこで知り合った友達か、というのをぜんぶ入力していた。もちろんぜんぶ想像である。
 ネットで調べながら、ちゃんと現実にありそうな名前やメールアドレス、実在の住所なんかを入れていたから、ひとり作るのに30分以上はかかっていた。
 たしか、「コイツは小学校のときの友達で、サッカーが上手くてかっこいいんだけど、すぐ彼女と別れちゃうんだよなあ。メルアドも毎回『ayako-foreverlove』みたいなの入れちゃってさあ」なんてことをひとりでしゃべりながら登録していたと思う。もちろんぜんぶ想像である。

 どうですか。いいんですよ。震えていいんですよ。世界ってあなたが思う以上に広いんですよ。

 その日課は機種変更するまでの2年間続き、最終的にぼくのJ-SH53のアドレス帳は友達でいっぱいになった。そのなかに実在の友達が存在していたかどうかは察してほしい。

image
出典:http://ascii.jp/elem/000/000/316/316914/

 数ヶ月前、ひさびさに実家に帰省したとき、「子ども部屋にある古いパソコン、もう捨てていい?」と母に聞かれた。
 なつかしくて、捨てる前にホコリをはたいてケースの中身も掃除してあげたら、なんと電源がついた。10年ぶりくらいの起動のはずなのに。
 いまは亡きWindows Meのロゴに感動しながらマイドキュメントを開くと、そこにはあるExcelファイルが眠っていた。

 架空の友達の設定が詰まった、あの一覧表だ。

 震える手でそれを開くと、出てくる出てくる、青春を彩ったともだち数百人。
 いまとなっては笑い飛ばしたいような、でもやっぱり直視できないような複雑な想いを抱えながら少しずつスクロールしていくと、なんと、250番目くらいに妻の名前があった。

 ぼくが妻と出会ったのは大学生になってから。この時点では知っていたはずがない。
 つまり、まったくの偶然だ。

 さすがに名前以外の設定はぜんぶ違ったが、名前が一致しただけでもすごい偶然だ。っていうか奇跡だ。これってやっぱり運命だ!

 PCの電源を落として別れを告げたあと、ぼくはすぐ妻のもとにダッシュして報告した。高校時代こういう事情でこんなリストを作ってたんだけどそこに妻と同じ名前が偶然あったんだよ!すごくない!?と。

 しかし、妻の反応は意外なものだった。

「えっ、待って待って。すごいとかの前にめっちゃヤバいしめっちゃキモい」

 ぼくにとって意外な反応だったというだけで、妻の感覚はものすごく正常かつ常識的であるということは言うまでもない。

Amazon | HGCC ターンエーガンダム 1/144スケール 色分け済みプラモデル | プラモデル 通販
HGCC ターンエーガンダム 1/144スケール 色分け済みプラモデルほかロボットのプラモデルが勢ぞろい。ランキング、レビューも充実。アマゾンなら最短当日配送。

コメント

  1. しおり より:

    初めまして(*^_^*)
    中学校の友達いなくてチョコレートゴディバ買う事件もあわせてよんだのですが、この記事の最後の奥様のセリフ、笑いました(笑)(笑)(笑)

  2. 名無しのゲーマー より:

    同世代だ!
    自分も友達いなかったので胸がキュッとなりました
    でも最後はなんとなく感動

  3. 名無しのゲーマー より:

    こう書くと失礼かもしれませんが
    ちゃんと結婚できてよかったですね…本当に

  4. 名無しのゲーマー より:

    闇の青春シリーズだいすき

  5. 名無しのゲーマー より:

    奥さん冷静すぎて笑ったw

  6. 名無しのゲーマー より:

    アメトークの中学の時イケてない芸人じゃないけど
    今の中高生に読ませたら勇気出る人多そうな内容だった

  7. しろくま より:

    すごい〜運命やん!
    そしてあなたの面白さをもっとだしてほしい!もったいない〜

  8. 名無しのゲーマー より:

    奥さん流石やわ……なんていうかスゴイ

  9. 名無しのゲーマー より:

    正常じゃないせいかむしろ面白くてセンスあるし素敵て思う
    妻なら
    え?!なにそれw超ヤバい←いい意味の
    ってなる
    オタはやぱいいなー
    初見であなたに親近感をわき好きにぬりました

  10. 名無しのゲーマー より:

    挫折(?)を味わった人の話ってやっぱ面白い

  11. 名無しのゲーマー より:

    奥さん最高ですね。

タイトルとURLをコピーしました