28歳男性、いまさら人生初のヒトカラに挑む。

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 ある平日。午後に休みが取れ、横浜駅周辺で3時間ほどヒマを潰すことになった。
 いつもならネットカフェに入るか適当に家電量販店めぐりでもするところだが、この日のぼくは違った。いつになくチャレンジングであった。

 「一人カラオケに行ってみよう!」 

 一人カラオケ、通称ヒトカラ
 歌うことが好きな人なら誰もがいちどは憧れたことのある、至高のレジャーである。

 しかしそれは、多人数で遊ぶことを前提に設計・運営されているカラオケ店にたったひとりで入るという恥辱に耐えなければ体験できないという高いハードルを持つ。勇気ある戦士にしか抜くことのできない聖剣なのである。

 期待を打ち消して余りあるほどの不安が伴う、初めてのヒトカラ。
 こういうときは、得体の知れない個人店よりは、大規模チェーン店に行くほうがおそらく安心だろう。いまどき、大手チェーンであれば、混雑時を除き「ヒトカラお断り」の店はまずないと聞く。
 幸い、いまは平日の昼だ。混雑していることはない。

 さて、横浜駅周辺の大手カラオケチェーンといえば、ヨドバシカメラの近くにあるビッグエコーか、ドン・キホーテの向かいにあるカラオケ館である。
 

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 まずは、何年か前に妻と行ったことがあるビッグエコーに向かう。
 なにかと不安なヒトカラ。いちどでも行ったことがある店のほうがなんとなくホッとするというものだ。
 横浜駅前のビッグエコーは少し特殊で、数十メートルしか離れていないところに2店舗もある。両方を外から覗いてみて、入りやすそうなほうに入ってみるのがよさそうだ。

 ……と、思ったのだが。両店舗の入口前に貼られていた紙の記述にぼくは驚愕する。
 

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 「1室2名様以上でご利用の料金となります」

 なななな、なんだとコラー!!
 これは「2名様以上じゃないと利用させませんよ」って意味かコノヤロー!!
 それとも「1名様でもいいけど割増料金取りまっせ」ってことかコノヤロー!!

 おそらく後者なのだろうが、どちらにせよこの時点でぼくの心はポキッと折れた。ビッグエコーはやめよう。
 順当に後者だとして、店員さんに「こいつ割増料金払ってまでヒトカラだってよプププ」と思われるのもイヤだし、もしかすると前者で「え?当店はおひとりじゃご利用いただけませんけどウフフ」と嘲笑されるのも絶対にイヤだ。
 むろん、実際には店員さんはそんなこといちいち気にしちゃいない、ということは理屈ではわかっている。しかし、理屈では説得できないのだ。初めてのヒトカラに挑もうとする人間の、不安に覆われきった弱すぎるメンタルというのは。
 

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 というわけで、傷心のまま次に向かったのはカラオケ館である。 

 同じく入口前の張り紙を注視したが、こちらにはヒトカラを間接的に拒むような記述は見られなかった。さすがカラオケ館だ!ぼくは最初からカラオケ館がいいなあ、やっぱ日本一のカラオケチェーンはカラ館だよなあって思ってたんだよ!

 意を決して店内に入る。
 さすが平日の昼間、フロントにはぼく以外誰もいなかった。さっそく店員さんと目が合う。

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「ひとりなんですけど、大丈夫でしょうか」
「はい、大丈夫ですよ。ご利用時間はいかがされますか?」
「ええっと、1時間半で」
「はい。当店はワンドリンク制となっておりまして、よろしければいまご注文うかがいますが」
「ええっと、アイスウーロン茶で」
「ありがとうございます。それではこちらの伝票お持ちになって○○番ルームへお進みくださいませ」
「あっ、すいません。部屋の中にコンセントってありますか?少し仕事でパソコンを……」
「申し訳ございません。コンセントは……」
「あっ、そうですか。大丈夫です。なんとかしますんで。ありがとうございます」

 ……といった感じで無事に受付でのやりとりを突破し、カラオケルームにたどり着くことに成功したぼくである。
 ちなみに、最後の「仕事でパソコンを使いたい」的な発言は完全にウソである。店員さんの笑顔を前に、なぜか急に気が狂って「あ、ぼく決してひとりで歌いに来たさみしいヤツじゃなくてですね、ちょっと個室で集中して仕事を進めたくてここに立ち寄ってみた次第でして」みたいな空気を出そうとしてしまったぼくの愚かな愚かな小芝居である。
 だいいち、受付でこんなウソをついたところで、どうせ部屋に入ったらバリバリ歌うわけだし、その様子は防犯カメラで店員さんに見られているわけなので完全に無意味である。ぼくはいったい何をやっているのか。

 まあ、しかし、入ってしまえばあとはこっちのものだ。

 が、すぐに歌い始めてはいけない。店員さんがドリンクを持ってくるまでは、適当にスマホをいじって時間を稼ぐ必要がある。さすがにヒトカラで全力で歌っている最中に店員さんに入ってこられたら自殺モノだ。

 そして、無事にドリンクが到着したらばいよいよ自分だけの世界が始まる。時間とノドの許す限り、好きな曲を片っ端から歌いまくっていくだけである。
 

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 TOKIO『リリック』から始まり、1時間半みっちり休みなしで全22曲を堪能したぼくである。
 『麦の歌』を歌っていたら「あれ?ぼく中島みゆきの歌マネうまいぞ?」とふと気づいて中盤に再度『麦の歌』と『悪女』をねじ込んでみたり、最後に声を張りやすいアニソン3連発を入れて気持ちよく終わってみたり、我ながらヒトカラの「らしさ」を存分に味わうことができたように思う。
 適当に「1時間半」と決めて入ったが、ぼくのノドが持つ限界の時間もちょうどそれくらいだったようで、終わったときには多大な満足感と心地よい疲労感が残った。

 ありがとう、また来ますカラオケ館。二度と行かねえぞビッグエコー。

コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    選曲の年代が幅広すぎてすげぇ

  2. 名無しのゲーマー より:

    ビッグエコーのヒトカラは
    都市部2倍、郊外は1.5倍料金が多いみたいですね
    もともとカラオケ店の中でも高い方なので痛いです

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