西武池袋の黒ずんだ金魚。

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 西武池袋本店の屋上には小さな釣り堀がある。
 30分500円。シンプルな竿と練りもの状のエサで、金魚釣りを楽しめる。

 子どもたちを連れて歩いていたときたまたま発見して、やってみることにした。
 

 『あつまれ どうぶつの森』で釣りそのものは知っているが、リアル釣りは初体験のふたり。
 針が危ないので、エサを付けるのはぼくがやってあげて。「この黄色い『うき』っていうやつがぴくんってなって下に沈んだら、釣り上げるんだよ」と教えてあげて。子どもたちは「そうなんだ!どうぶつのもりににてるね!」なんて感動して。おいおい、まあそうなんだけど似る順序が逆だぞ、とちょっと笑って。

「パパ~、ぜんぜんこないよ」
「うーん、ひょっとしてもう食べられたんじゃない?上げてみたら?」
「ほんとだ、もうえさがない」
「さっきちょっとだけピクピクッてなってたから、そのとき食べられてたのかも」
「え~、むずかしい~」
「ははは。まあそうカンタンに釣れるもんじゃないよ。ちょっと貸してみ」

 ……

 …………

「パパ、それもうたべられてるんじゃないの」
「いや、そんなはずは……あっ、ホントだ」
「ほら~!はい、つぎはわたしのじゅんばん!かわって!」

 うーん。けっこう難しいな、これ。
 いかんせん、ぼく自身、人生で釣りというものをほぼやったことがない。インドア派だし、友達いないからな。機会にとんと恵まれなかった。エサの付け方をいまGoogleで調べて知ったくらいだから、その腕前はお察しである。
 でもまあ、理屈はなんとなくわかる。要は、ピクッとなって金魚が食いついたときに、クイッと軽く針を動かして、金魚の口に針を引っかけてやればよいのだ。そうすれば自然と釣れるだろう。あと2~3回やればコツがわかって、子どもたちにいいところを見せられるはず

「わーーーー!つれた!パパたすけてー!!」

 えっ!?
 

 ええっ!?
 

 つ、つつ、釣れた!
 娘ヤベェな!天才かよ!そんなカンタンに釣れることある!?前世が太公望なの!?
 

 けっきょく30分で釣れたのは、この1匹だけ。娘は大満足。息子も「きっと、ぼくがさっきおなじところでえさをたべさせたから、おさかながよってきたんだよ!」と自慢げ。ポジティブだな。

 この釣り堀では、釣れた金魚を1匹だけ持ち帰ることができる。
 が、持ち帰ったら飼わなきゃいけない。うちには水槽もなにもないから、お金がかかる。金魚鉢だけだとしても1,000円くらいはするだろうし。
 ぼくはとある理由があって、4,400万円の借金を抱え、子どもたちと別居している。事故物件みたいな家賃の古いワンルームにひとりで住み、袋ラーメンと野菜ジュースとうまい棒だけで生きている。正直、1,000円は1週間ぶんの食費に匹敵する大金だ。

 ……が。ぼくは釣り竿を返却しながら店員さんに話しかけた。

「すみません。この金魚を持ち帰りたいんですが」
「はい、わかりました」
「あと、正直、金魚の知識がぜんぜんなくて。一式、ちゃんとしたのを買いたいんです。できるだけ元気に育つようなやつ。時間大丈夫でしたら、教えていただいてもいいですか」
 

 水槽、エサ、網、エアポンプ、水温計、カルキ抜き、バクテリア。ぜんぶで6,500円くらいした。
 店員さんが案内しながら取ってくれる一品一品について、最初はつい値札に目がいってしまっていたが、途中で見ることをやめた。気にするのはやめた。
 子どもたちが初めて自力で釣った魚。飼ってみたい、と言うのは当然だ。いや、飼ってみたいって言わなかったとしても、ぼくが飼わずにはいられなかった。エゴかもしれないけど、証を残したかった。
 

 袋に入った金魚を、揺らさないように慎重に、3人で協力してぼくの家まで連れて帰る。
 娘と息子は「すいそうはわたしがもつ!」「ふくろはぼくがもつ!」と、重い物から率先して持っていた。落としたらたいへんだぞ、とドキドキした。「代わろうか?」と言っても彼らは「だいじょうぶ!」と笑ってみせ、かたくなに離さなかった。

 6,500円出してよかったな、と思った。まだ家にすら着いていないのに。
 ぼくは、単に金魚を買ったのではない。想い出を、親子の絆になるかもしれないものを買ったのだ。
 あのとき、1匹だけ釣れたねって。水槽も袋も重かったねって。汗で手がすべりそうになったねって。でも絶対離さなかったねって。あれからみんな、ずいぶん大きくなったよねって。
 もしかしたら、何年後か、何十年後かに、そんな話ができるのかもしれない。
 

 説明書を熟読し、ネットでもいろいろ調べながら、金魚を慎重に水槽へ移し替える。娘がやたらと記念写真を撮りたがる。「わたしのきんぎょだから、いっぱいツーショットとらなきゃ!」とはりきっている。ぼくともツーショット撮ってくれよ。
 

 金魚の名前は「まるくろ」。
 娘と息子が相談して、最終的には娘の発案で決まった。
 目が丸くて身体が思ったより黒いから、まるくろ、なんだそうだ。呼びやすい。いい名前だ。
 

「まるくろ、いっぱいみにくるから、いっしょにそだてようね!」
「うん、わかったよ。ちゃんと毎日ごはんあげて、写真も送るね」

 ぼくたちはそう約束して、子どもたちは本来のおうちへ戻っていった。
 責任重大だな、ぼくも、まるくろも。死なせたら、死んだら、たいへんだ。がんばろうな、お互いに。金魚1匹に背負わすには重すぎる責任な気もするけど、まあ、ときどきいいエサあげるから許してくれよ。もしかしたら、こんどは息子が釣ってきて、仲間が増えるかもしれないしさ。
 

 水質が変わったからなのか、3日目で体色から黒っぽさが抜けてきた。まるくろの「くろ」要素が早くも薄まってきた。
 でも、まるくろはまるくろだ。もし大きくなって立派な赤い金魚に育ったとしても、まるくろだ。この名前のおかげで、釣った日のことをいつまでも思い出せる気がする。

 金魚の寿命は、10~15年らしい。うまく飼えれば、けっこう長生きだ。
 でも、そもそも、まるくろはいま何歳なんだろうな。何歳なんだ、おまえ。こんどまたあのお店に行って、聞いてみなきゃな。
 何年の付き合いになるかわからないけど、まあ、よろしく頼むよ。
 それにしても、ひとつ納得いかないことがあるんだけど、おまえアレだな。おまえのエサ、ひと袋500円もするんだな。少食だから長持ちするとはいえ。ぼくがいま食ってる袋ラーメンはひと袋50円だぞ。おまえのほうが格上っぽいな。
 

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コメント

  1. 名無しのゲーマー より:

    全体的に重いぜ…
    つーか食費一週間で千円て
    もっとちゃんとしたの食べて!

  2. 名無しのゲーマー より:

    金魚より長生きしろよ

  3. 名無しのゲーマー より:

    ルームメイトが出来て良かったな!

    とりあえず子供にライン送るネタ出来たって前向きに考えようぜ

  4. 名無しのゲーマー より:

    ちゃんと食って、お前も長生きするんだぞ

  5. 名無しのゲーマー より:

    心えぐられますね…絆、大事にですね。

  6. 名無しのゲーマー より:

    なんか最近いちいち重いな

  7. 名無しのゲーマー より:

    ペットの方がいいもの食ってるのはあるあるだな

  8. 名無しのゲーマー より:

    金魚長生きさせるためにも健康に気をつけなよ

  9. 名無しのゲーマー より:

    小学生の頃に金魚飼ってたの思い出すわ
    結構掃除大変だぞー。まぁ水槽そこまで大きくないし大丈夫かな?

    ……朝起きた時水面に浮かんで亡くなってたのは今でもちょっとトラウマ

  10. 名無しのゲーマー より:

    ポケモンでもまるくろ育てようぜ

  11. 名無しのゲーマー より:

    子供が飼うんじゃないんかーい!

  12. 名無しのゲーマー より:

    パパの家にいくための理由とか子供ながらにいろいろと考えてそう。

  13. 名無しのゲーマー より:

    水換えの時、水槽の水温と新しい水の水温を同じにして、新しい水に慣らすように少しずつ足すのが一番のポイントだと思うのだ
    これやるだけでかなり違うはず
    細いチューブとか使ってチョロチョロっと水を注げる仕組みを用意できるとめっちゃ楽よ

  14. 名無しのゲーマー より:

    どんな理由でもいいから子供と会う理由になるやつは大切にしろよ!

  15. 名無しのゲーマー より:

    一時期YouTubeでアクアリウム系の動画見てたが、水が透明でも亜硝酸だかの濃度が上がってヤバいこともあるらしくて金魚飼い始めは特に注意を要すらしいので情報は入れてな?

  16. 名無しのゲーマー より:

    このカテゴリの他の記事読むと、どうしてこうなったのかと思わずにはいられない…どうか幸せになってくれ……

  17. 名無しのゲーマー より:

    金魚はアンモニア産生が多いから、水質には気をつけて!
    濾過機に任せっぱなしにせずこまめにお水替えてあげてね!

  18. 名無しのゲーマー より:

    じ〜んと来た。
    あと、コイツ…金魚なのかな?

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